さくら、桜

 

 

警視庁に程近い、公園の一角。

花見の名所になっているこの公園では、沢山の人が桜を愛でに・・・いや、宴会を楽しみに訪れていた。

その中には、おなじみの面々も。

 

「えー、では、只今より警視庁捜査一課弐係のお花見会を始めたいとおもいまーす」

片手にお茶の入った紙コップを掲げて、柴田が幼稚園の先生のように言った。

「馬鹿、そんなにでかい声で警視庁とか言うな!この、世間知らず!」

お約束のようにお守り係が突っ込む。

「え?駄目なんですか?どうしましょう…」

「なんでもいいから始めよーや、柴田」

「あ、柴田君、乾杯の音頭なら私が・・・」

「東大ちゃーん、このから揚げ食うてもええ?」

「遠山君、乾杯が終わるまでは駄目ですよ」

弐係の面々(と、何故かいる元弐係長待遇)も、お花見をするためにこの場所に来ていた。

 

「警視庁が駄目なら・・・イチゴ保育園とか・・・?」

「お前ね、俺たちのどの辺が保母さんに見えんの?」

「あはは、真山さん保父さんかいな。似合わんな〜」

「あの、今は男女雇用機会均等法というものがありまして、『保母さん』『保父さん』ではなく、『保育士』と呼ぶのが正しいかと・・・」

「でも、真山さんが保父さんになったら、子供に変なことまで教えそうやなぁ。キヒヒ」

「え?変な事って何ですか?彩さん」

「わいせつや、わいせつ。怖いやろ、柴田」

「なんだよ木戸!人聞き悪いね。俺、すっげぇ可愛がるよ。子供」

「うっわ〜、想像してもうた。気っ色悪〜」

「わいせつなんですか?真山さん」

「あの、そろそろ乾杯を、柴田君」

「東大ちゃん、この枝豆食うてもええ?」

「ですから、遠山君。乾杯まで我慢して下さい」

「なんなら、僕が乾杯しようか?」

「じゃあ、『柴田製作所』とかの方がいいですか?前鰍ナ」

「なんだよ『柴田製作所』って!お前が社長かよ!」

 

「あ〜も〜なんでもええやん。はい乾杯―!」

彩の一言で、みんなが形だけの乾杯をする。

「あ、乾杯・・・しちゃったのね・・・」

「何?元係長したかったん?乾杯」

「いや、こういうものは年上の私の仕事かなぁ、…なんてね」

「アンタもう弐係の人やないやん」

彩のさり気ない一言が野々村元係長待遇の心にずきりと突き刺さる。

しかし、周りのみんなは楽しそうに飲み始めていたのでまあいいやと自分も飲み始めた。

 

 

「いやー、働いた後の一杯は上手いでんなー」

「何、お前働いたの?いつ?」

「酷いっすね、真山さん。わしはこう見えても、家に帰る暇を惜しんで捜査してるんでっせー?」

「の割には自力で事件解決してないみたいだけどね」

「あはは。きっついなぁ、真山さん」

「本当の事、言ってるだけだけどね」

冷静にそう言って、真山が缶に残っているビールを飲み干す。

「そういえば、真山さんと東大ちゃん、朝から見んかったけど捜査に行ってはったんすか?」

「あのね、君たちがここで楽しく飲んでいられるのは誰のお陰だと思ってんの?」

「真山さんと柴田さんに場所取りしてもらったんですよ」

「あ、そーだったんすか?」

「そう。くじではずれ引いちゃったよ。全く」

「案外二人でラブラブしとったんちゃう?」

「木戸、首絞められんのと銃で撃たれんの、どっちがいい?」

「柴田ぁー、あんた何のんきに茶ぁ飲んでんの?」

「いけませんか?」

「話逸らしやがったな。木戸」

「花見の席で、お茶?アホちゃう?酒飲みぃな、酒」

「はぁ。でも、私お酒駄目なんです。すみません・・・」

「すいませんちゃうって。ええから、酒のみ。」

「え、でも私本当に・・・」

柴田が真山に目線だけで助けを求める

「木ー戸、やめとけって。マジでこいつ弱いからさ」

「そんなこと聞いたら、ますます飲ませたくなるっちゅーもんよ。な、柴田ええやろ?一杯くらい」

「真山さぁん?」

「俺に聞くなって。自分で考えろよ」

「柴田ぁー、あんたアタシの言うことが聞けんの?」

「・・・じゃあ一杯だけ・・・」

「馬鹿。俺しーらね」

「柴田、初心者にビールはきついやろ?梅とレモンと桃のチューハイあるけど、どれがええの?」

「えーっと、じゃあももで・・・」

「はい。どうぞ、柴田」

が柴田に手渡したのは、小さなピンクの缶。

「・・・ありがとうございます」

柴田が小さくお礼を言った。真山は無関心そうに新しい缶を開けている。

柴田も、それに倣うようにしてタブを開ける。

炭酸がはじける小さなしゅわしゅわという音と、柔らかいももの香りが柴田の心をわくわくさせた。

「飲んでみぃ。美味いでぇ?」

彩が少し赤い顔でニヤリと笑う。

その顔に誘われるように、チューハイを一口、こくりと飲んだ。

その姿を真山が横目でチラリと見て「しーらね」ともう一回呟いた。

 

「どう?柴田。美味いやろ?」

彩が嬉しそうに柴田に聞く。

しかし、その声は柴田には届かなかった。

「えへ、えへへへへ」

柴田が顔を赤くして、不気味に笑い始めた。

「・・・真山さん、柴田が・・・」

「だから俺言ったでしょ?アルコール駄目なんだって、コイツ。俺止めたからね、一応」

「うふ、うふふふふ」

「柴田、アンタ、大丈夫?アタシのこと、解る?」

「わかりますよ〜〜、彩さんですよね〜」

「なんや、けっこう意識はっきりしてんのや」

「でも、顔凄く赤いですよ?大丈夫ですか?柴田さん」

「は〜い、こんどーさん」

「な、なんか酔っ払うと、かわいらしいですねぇ、柴田さん」

「おもろいでんな、東大ちゃん。もう一杯どうっすか?」

「もうらめれすよ〜、もうのめませ〜ん」

「そんなこと、いわずにもう一杯、ええでしょ?」

「こらこら、遠山君。無理強いはよくないよ?」

「ほんまや、金太郎やめとき。・・・真山さん大丈夫なん?この子」

「俺に聞くなよ。大丈夫でしょ?一応法律に違反した年ってわけでもないし。ほっとけば?」

「相変わらずやなぁ、真山さんも」

彩があきれて言った。

本当は誰よりも気にしているのに関心のないフリをする。それがいつもの真山なのだ。

特に柴田に関しては。

彩は真山の本心がわかる自分が、すこしけなげで、悲しくなった。

 

しかし、センチメンタルに浸っていられるほど、今の状況は甘くなかった。

 

 

「あやさぁーん、あついですねー。まだはるなのに〜」

「そうか?今日はちょっと肌寒いで・・・って柴田、アンタ何やってんの?」

「なにって・・・?あついから、ちょっとふくぬごうかなと・・・」

そう言って赤い顔の柴田は、無造作にブラウスのボタンを外そうとしていた。

ぱしん

「なにやってんの、お前。猥褻物陳列罪で逮捕するよ?」

柴田が他の男に肌を見せるのを嫌がったのであろう。無視を決め込んでいた真山がいち早く柴田を止めた。

その行動の早さに彩が苦笑いをする。

 

「あ〜!まやまさんだ〜。まやまさ〜ん!!」

その声を聞いて、柴田はすぐにボタンを外そうとしていた手を止め、満面の笑みを浮べた。

「けしかけられて、酔っ払ってんじゃねぇよ。馬鹿」

真山がぶっきらぼうに言った。

「真山さ〜ん、ここにいらっしゃったんですか〜。さがしたんですよ〜」

柴田がそう言って、真山に抱きついた。まるで母親を見つけた迷子の子供のように。

「何だよ。くっつくな。公共の面前だよ、あほ」

「いやです〜。はなれませ〜ん!!」

「何だよ。すっぽんみたいなヤツ。離れろって!!」

「はなれませ〜ん!!」

「木戸!見てないで助けろ!」

「いややわー。見せ付けんといてー、真山さん」

「おい、京大!お前でもいいや、これはがせ!」

「いやぁ、東大ちゃんといえども、女性に乱暴は・・・」

「ああもう何だよ!覚えとけよ、お前ら全員あとで木端微塵にしてやるからな!」

あははははと弐係の面々が楽しそうに笑う。

 

真山の眉間の皺は深く、多くなっていた。

その不機嫌の元凶が口を開いた。

「まやまさん〜、あの、あのですね?」

「何だよ?」

うんざりとした表情で真山が柴田の顔を見下ろす。

「まやまさんのなまえ、よんでみてもいいですか〜?」

「は?」

「いっかいよんでみいたかったんですよね〜」

柴田が幸せそうに笑う。

「俺の名前?何で?」

「ふかくきにしないでください〜。うふふふふ〜」

小さく「あほらし」、という彩の声が真山の耳に入った。

「いきますよ〜?・・・とお・・・るい王って誰でしたっけ?」

「盗塁王?しらね〜」

「とお・・・りには人が多そうですね?」

「まあ、花見客が多いからな」

「とお・・・やまさんって今なにしてますか?」

「ん?から揚げ食ってるよ。見ればわかんだろ?」

今度は、野々村と近藤が遠くで笑っている。

どうしても最後の一文字がいえない柴田と、それがわかっていながらいちいち誤魔化しに真面目に答える真山が可笑しいのだろう。

 

「まやまさん、わたしやっぱり・・・」

「何?」

「そんなはずかしいこと、できませーん!!」

そういい残すと柴田は走って人ごみの中を逃げていってしまった。

 

 

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