護りたいもの 

 

 

アイツが、甦った。

理由なんて、わからない。どうやってなんて知りたくもない。

 

俺がすべき事は、もう一度、アイツを殺す事。

ただ、それだけだ。

 

 

「お久しぶりです、真山さん」

ヤツの第一声は、いつもと変わらぬ人を馬鹿にしたような声。

「なんだ、お前また来たのかよ?」

うんざりしているのを隠すわけでもなく、嫌そうに答えた。

「はい。真山さんに会いたくて、会いたくて、頑張ったんですよ。僕」

「頑張るな。ね?所詮は、お前の片思いだぜ。俺は逢いたくなかったよ」

「嘘ですね。真山さんも僕に会いたくて会いたくてたまらなかったはずですよ?」

「誰がお前なんかと。自意識過剰」

俺の吐き捨てるような言葉にヤツが嬉しそうにくくくと笑う。

ヘドが出そうだ。

 

そう、ヤツ―朝倉裕人―が再び、俺の前に現れた。

 

 

「そうそう、アナタもお久しぶりですね、柴田さん」

朝倉が、口の端だけで笑った。

俺が、無意識に背中の後ろに追いやった柴田が、ぴくりと動いた。

ちらりと柴田を見ると、真っ直ぐに朝倉を見つめていた。

相変わらず、真っ直ぐなヤツだ。

「柴田さんにもお会いしたかったんですよ。すっかり僕の真山さん奪ってくれちゃって」

「誰がお前のモンなんだよ。気色悪ぃな」

「ふふふ。真山さんらしいや。そういってくださると思ってましたよ」

心底嬉しそうに朝倉が笑う。

俺は奥歯を思いっきり噛み締めた。

これほど、嫌いになれる相手は恐らく生涯で朝倉だけであろう。

そう思うと、朝倉が自分に固執する意味がすこしわかった気がした。

 

けれども、朝倉を理解するつもりはない。理解したくなんてない。

俺はコイツを殺さなければいけない。

それはきっと運命だ。

何よりも強く、太い絆。

 

「嫌な、運命だな・・・」

そういって、懐から銃を出し、朝倉に向ける。

「真山さん・・・」

柴田が、小さく呟いた。

 

「ああああ〜!!」

朝倉が、嬉しくてたまらないといったように奇声を上げる。

「いいですねぇ〜。真山さんに銃を向けられる時が、一番興奮しますよ」

嬉しそうに、舌をぺろりと舐めている。

「うるせぇよ。さっさと死んで?」

「そう簡単に死ねないんですよ。もう少し楽しみたいんでねぇ、アナタとのゲームを」

「ゲーム、ねぇ・・・」

ふっと今度は俺が笑った。

憎かった。

妹を殺し、同僚を殺し、罪もない人たちを殺した男。

もう手放す事の出来ない愛しい存在の命を脅かした男。

そして、そんな女と一緒に生きるという俺のささやかなねがいまで邪魔しようとする、この男が。

思いっ切り睨みつけて、引き金に指をかけた。

 

そのとき、朝倉の背後から銃声がした。

 

「くっ!!」

「真山さん!!」

その弾は、俺の腕をかすったようだ。柴田が、すぐに声を掛けてくる。

「真山さん」

柴田が泣きそうな顔で俺のことを見上げる。

「いいから、下がってろ」

柴田の顔を見ないように、淡々と言った。

 

「斑目か・・・」

斑目が、朝倉の後ろから顔を出した。

「…さすが真山さん、よくお分かりになりましたね?」

「可愛い部下のこと、忘れるかよ・・・」

「元、部下です」

「相変わらず融通の利かないやつだねぇ。で、何?お前ら組んだの?」

「いえ、これも真山さんの為でしてね。

自分が育て上げた部下に殺されるっていい気持ちでしょう?」

「元、部下だ」

律儀に斑目が訂正を入れた。

「朝倉、お前相変わらず趣味悪いね?」

「真山さんに褒めてもらいたいだけです」

それだけ言うと、朝倉が斑目の後ろに下がった。

いよいよ銃撃戦の始まりか。

 

そのときだった。

「斑目さん!やめてくださーい!!」

柴田が突然、俺の前に立ちはだかった。

「柴田、馬鹿!どけ!」

「どきませーん!!」

「柴田!!」

強く叫んで柴田を睨む。

そんなことしたら、お前が死んでしまう。

それだけは、絶対に避けたかった。

 

「駄目です。私もう、真山さんが傷つく所、見たくないんです」

柴田がこちらを見ずに静かに、はっきりと言った。

「じゃあ、自分が死んでもいいって言うのか?」

柴田を責める様に強い口調で尋ねた。

 

「はい」

 

「柴田、お前・・・」

その時、二度目の銃声がした。

斑目が、柴田に向けて発砲したのだ。

 

柴田が、バランスを崩して俺のほうに倒れてくる。

その瞬間が俺の目にはスローモーションにしか見えなかった。

頭の中が真っ白になって

ただ、柴田を抱きとめる事しか出来なかった。

 

 

「・・・真山、さん」

柴田が薄く目を開けて、俺の名を呼んだ。

その声でようやく我に帰った。

「…柴田、大丈夫か?」

「はい、真山さんお怪我は?」

「・・・馬鹿」

その俺の声を聞くと、安心したかのように柴田が気を失った。

柴田の体を抱えて、俺はゆっくりと立ち上がった。

 

「斑目、てめぇ・・・」

ゆっくりと斑目の方を振り返った。

「真山さん、今日こそ決めましょう。一番強いのは、真山さんか、自分か」

「何?」

「真山さんの事は、尊敬してます。でも、一番強いのは自分です」

「は?何言ってんの?お前のほうが強いに決まってんじゃん。SWEEPの隊長さんよぉ」

「自分は、もっと自分が強いという証拠が欲しいんです」

「証拠?」

「あなたを倒して、自分の強さを感じたいんです」

「俺はそんなモンに協力するつもりはないよ。悪いけど」

「どうしてですか?」

「簡単に死ねるような軽い命じゃないんでね」

「柴田の、為ですか?」

「・・・そうだと言ったら?」

 

「俺が、柴田を殺します」

 

俺の動きが止まる。

「斑目、お前・・・?」

「柴田さえいなくなれば、真山さんは心置きなく死ねるんですよね?」

顔色一つ変えずにそう言い放つ斑目に違和感を覚える。

 

「朝倉、お前変な暗示かけたのか?」

朝倉に尋ねると、ヤツは意地悪く笑って答えた。

「いいえ。僕は彼の深層心理を解き放つお手伝いをしただけ。それが彼の本心なんですよ」

「へぇ。・・・斑目、お前以外と物騒なヤツだったわけね」

「真山さんの、元部下ですから」

「しつこいって、それ」

くすりと笑った。

もし、これが斑目の本心であるなら、できれば戦ってやりたいところだった。

俺の存在が、SWEEP隊長としての斑目の気分を悪くしていたのなら、素直に戦って斑目の自信を付けさせてやりたかった。

そう、斑目は本当に可愛い俺の部下だったから。

 

でも、そういうわけにはいかない。

俺は、可愛い部下を見捨ててまで、長年の敵との戦いを放棄してまで護りたいものがあるんだ。

薄情だと罵ってくれてもいい。臆病だと笑ってくれてもいい。

みっともなくても、情けなくても、それでも護りたいんだ。

この女を。

そして、この女に依存しているこの俺を。

 

 

柴田を、片手だけで持ち上げた。

もう一方の手をすっとあげ、銃を斑目に向ける。

「真山さん、柴田を離してください。でないと柴田を狙いますよ?」

「嫌だね。お前には悪いけど、俺は勝負する気なんてないって言っただろう?」

 

「そんなに柴田が大切ですか!?」

斑目が、悔しそうに叫んだ。

 

「ああ。コイツの為なら、世界を敵に回したっていい」

ヒュ〜と、朝倉が冷やかすように口笛を吹いた。

斑目は、こちらを睨んでいる。

「真山さん、アンタ腑抜けになったな。昔のアンタは、もっと強かった」

「腑抜けなのはどっちだよ?朝倉の操り人形なんかに落ちぶれたお前なんかに言われたくないねぇ」

「何!?」

 

斑目の殺気が強くなる。

きっとこれは夢だと自分に言い聞かせ、引き金を、引いた。

斑目の眉間に小さな赤い円が出来た。

それを横目で確認し、俺は柴田を抱えて走った。

後ろで、人の倒れた音がした。

 

段々力の入らなくなっている腕が、ずきりと痛んだ。

 

 

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