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「真山さん、すみません・・・」 廃屋になりかけたビルの屋上で、高野がぽつりと言った。 「ホント、何で研修生って面倒臭えんだよ。毎回毎回」 真山が苦々しい表情で言った。 「もう少しで事件がわかりそうな気がするんです」 凛々しい表情で高野がそう言うと、真山の表情が苦笑いに変わった。 「・・・東大出身って、みんなそんな感じなの?」 高野に聞こえないように呟いて、真山は咥えていた煙草を地面に落とした。
たまたま高野が手に取った調書は、8年前に男がビルの屋上で殺された事件だった。 目撃者の証言に疑問を感じた高野が、現場を見たいと言い出した。 彩の意見で同行者は真山が推薦され、他の面子を見ても反論の余地がなかったため、やっぱり真山が同行することになったのだ。
「あ、ねえ」 真山が高野に問いかける。 「はい」 「まさかさ、高いところダメとか言わないよね?」 「は?」 高野が不思議そうな顔をする。 「いや・・・なんでもない」 真山が軽く笑った。高野には何の事だかわからない。
高野は屋上から身を乗り出して、下を眺める。 「気をつけろよ」 真山が言ったが、すぐに訂正が入った。 「・・・って、子供じゃないからわかるよな」 「・・・はい」 また、苦笑いしている真山に、高野はそう返事をすることしか出来なかった。
「・・・真山さん」 突然声を掛けられて、真山が顔をあげる。 「犯人の目星、自分なりにつきました」 きりりとした表情で、高野が切り出した。 「ふーん。証拠は?」 「これから見つけることになります」 「・・・カンか」 「はい・・・捜査する動機としては弱いですか?」 「いや、それも大事だ」 高野が知らない間に火をつけていた煙草を、旨そうに真山が吸っていた。
不思議な人だ、と高野は思う。 厳しそうに見えたと思ったら、一転柔らかい笑顔を見せる。 失礼な話、こんな係にいるからは、仕事の出来ない人だと思っていたが、非常に的確なアドバイスをくれる。
何故か柴田純には会えそうにもないが、この男に会えたのはラッキーだったと思う。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」 「何だよ?」 「真山さんはどのくらいあの係にいるんですか?」 「・・・もう忘れたよ」 真山が軽く笑った。 「もっと、上の部署に行きたいとは思わないんですか?」 「上の部署?」 「捜査一課とか、もっとやりがいのある部署です」 少し緊張しながら高野が言った。 真山はその表情を見て、口元だけで笑い、煙草を吸いながら言った。 「俺はやる気がないからね〜。丁度いいんじゃないの?あそこが」 「マジですか?」 つい、敬語を忘れてしまう。それでも真山は気にしていなさそうに続けた。 「やりがいなんてさ、なくてもいいと思ってるし。欲しいとも思わないしね」 ふうーと大きく息を吐いて、煙が青空に昇っていく。
「でもさ、弐係って結構捨てたモンじゃないよ?」 柔らかい表情で、真山が言った。
「望んで、弐係にいるんですか?」 高野が聞き返す。 「・・・さあね」 旨そうに吸っていた煙草を真山が捨てた。 首を回してコキコキと音を出している。
「さて、行きますか」 伸びをしながら、真山が言った。 「どこに行くんですか?」
「証拠だよ。見つけるんでしょ?」 「あ、はい!」 大きく返事をして、高野も真山について行く。
高野には、真山という人間がすぐに理解出来そうになかった。
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