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「僕は何をしたらいいんでしょうか?」 高野は近藤に聞いた。 「そうですね、捜査の資料でも読んでてもらえますか?」 「資料、ですか」 「自分の好きなモン選んだらエエで〜。ここならな、よりどりみどり。選びたい放題」 彩が余計な茶々を入れる。 「あの棚な、全部未解決事件」 ベージュ色に彩られている綺麗な爪の先を見ると、 大きな棚、それに溢れんばかりの捜査資料があった。 「これ全部ですか?」 「そーや。やり甲斐あるやろ?」 「はあ・・・」 呆然としている高野に、近藤が優しく言う。 「すみませんが、私も珍しく片付けなければいけない書類があるんですよ。退屈でしょうけど、資料を読んでいて下さい」 「何?近藤さん、そんな仕事あったの?」 真山が声を掛ける。 「遠山君の捜査の報告書なんですけど・・・遠山君に頼んでも訂正ばかりなんで私が書いたほうが効率がいいんです」 「近藤さん、そんなの金太郎にさせや〜。甘やかしたらあかん」 彩が、応接ソファでいつの間にか眠りについている金太郎を軽く睨んだ。 「ええでも、監査の関係でこういう類の書類は今週中に出さないといけないらしいんですよ」 近藤が少し困った顔で言った。 「しゃあないなー。金太郎は後でアタシがお仕置きしといたるから、まかしとき」 「・・・やり過ぎないようにお願いします」 遠慮がちにだが、近藤がお仕置きを委託する。 断ったら彩が怖いのか、それとも金太郎が憎いのか。 間抜けな金太郎の高いびきは、確かに耳障りな事に違いない。
「とりあえず資料読んでー、気になるトコあったら真山さんに聞き。な?」 改めて彩が高野にアドバイスをする。 「・・・なんで俺?」 「アンタ今係長の代理や何かやなかった〜?」 彩がおどけて言った。 「便宜上でしょ?だから京大にやらせりゃいいって言ったんだよ」 「どっちにしろ条件満たしてへんかったしなー。試験も受けられへんし。・・・真山さん、金太郎がトップになったら終わりやと思わへん?」 「いいじゃん別に。仮なんだから誰でも」 「そやから、アンタでもエエっちゅうこっちゃ。なんにしろ、係長のご指名やからしゃーないやん」 「あの馬鹿、余計なことしやがって・・・」 真山が不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。 「あの・・・」 高野がようやく口を挟めた。 「ああ、気にせんといて〜。とりあえず、資料読んどきー。なっ?」 「・・・はい」 彩と真山に圧倒されて、少し呆然とした様子の高野がとぼとぼと歩き始めた。 調書のある棚の奥に入っていく。
「久しぶりにエエ男見たわ〜。なあ、真山さん」 「・・・俺に同意を求めんなよ」 「でも、柴田に会いたくてここに来たんやって」 「さっき聞いた」 「もう手遅れなのにな〜。なあ、真山さん」
真山が静かに煙草を取り出し、火をつける。 その様子を彩がじっと見ていた。 紫煙がぴりぴりしたオーラの様に、ゆっくりとのぼる。
「・・・木戸」 真山が口を開いた。 「何?」 「お前、さっきから煩いよ」 圧倒されるような威圧感に、彩が苦笑いをする。
「おーこわ」 彩は立ち上がって弐係から出て行った。
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