雪の華
「ねぇ、なんで新年早々こんな寒い思いしなきゃいけないの?」 真山がしかめっつらで隣を歩く柴田に文句を言った。 「いいじゃないですかー、初詣。今年一年のことをお祈りしておかないと」 柴田が嬉しそうに言った。 「寒いじゃん。明日にしようぜ、明日」 「何言ってるんですか。ここまで来たらお家に帰るより神社の方が近いですよー?」 「・・・露店でなんか奢れよ?」 「え?どうしてですか?」 「お年玉だよ、お年玉。たこ焼きでいいや」 「・・・じゃあ真山さんも何かおごって下さいよ」 「やだ」 「えー?私はお年玉なしなんですかー?」 「あげてんじゃん。いっつも」 「何をですか?」 「ん?愛情」 「・・・え?」 「嘘だけどね」
柴田は真山を恨めしそうに見上げ、それから拗ねたように口を閉じた。 そんな様子を真山は横目でチラリと見て、寒さで小さく身震いをした。
吐き出した息が白くなって、すぐ消えた。 冷え切った空気が、身体だけでなく心までひんやりと冷やす気がした。
柴田が自分の手をはぁーと温める。 指先がじんじんと痛い。 空を見上げると、厚い雲が太陽を覆っていた。
「・・・降りますかね?」 柴田が小さく尋ねる。 「何が?」 真山が柴田の方を向いた。 「雪です。降らないかなぁ・・・」 「ガキ。雪なんかが嬉しいの?」 「はい。綺麗じゃないですか。好きなんですよ、雪って」 「信じらんねー。寒いだけじゃん」 「もう!真山さんにはロマンってものが・・・」
「「あ」」
ひらりと柴田の目の前に降りてきたのは、真っ白な雪。
小さな雪の粒は、柴田の掌の上に落ちて、すぐに消えた。
「・・・消えちゃった」 「当たり前じゃん。雪なんだから」 柴田がもう一度ゆっくりと空を見上げた。
「お年玉、ですかね?」 「偶然だよ。寒いから降ったんでしょ?」
柴田が真山を見て、にこりと笑った。 「真山さんと見れてよかったです」 その笑顔がなぜかとても綺麗に見えて真山は何も言えず、少しだけその笑顔に見とれた。
「初雪、一緒に見れてよかったー・・・」 「初雪って新年じゃなくって、冬になって初めての雪なんじゃねぇの?東大出身」 「え?そうなんですか?」 「普通はね。でもいいんじゃない?キミ、普通じゃないから」 「ひどーい。私がヘンだって言いたいんですか?」 「わかってんじゃん。さすが賢いねー、東大出身」 「・・・真山さんの意地悪」 「何を今更」 「ですよね」 なんだか何を言っても無駄な気がして、柴田はまた黙り込んだ。
「・・・柴田」 真山が呼ぶ声に柴田は顔を上げた。 いつの間にかすぐそばに来ていた真山の顔に、言葉をなくした。 そして、ゆっくりとその顔は近づいてくる。
「ん」
一瞬、真山の唇のぬくもりが自分の唇に伝わって、柴田は目を瞑った。
「はい、お年玉」 「・・・え?」
すたすたと前を歩く真山の背中を、柴田はあっけにとられたように見た。 「おいてくよー?」 真山が振り返って、声を掛ける。 「あー、待ってくださーい」 とてとてと柴田は急ぎ足で真山に追いつき、それから真山の腕に自分の腕を絡ませた。 「・・・なにしてんの?」 「えへへ・・・」 なんだか何を言っても無駄な気がして、真山はため息をついた。 「・・・お好み焼きも追加ね。お年玉」
来年も、再来年も、その先も。 ずっとずっとあなたとこうして、一緒に入れたらいい。
そうして降り積もる雪のように、あなたとの思い出を積み重ねていきたい。 ずっと、一緒に・・・
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