秋の夜長

 

 

 

釦が全て外されたブラウスは男の手によって外された。

 

一瞬で、顔の温度が一気に上がる。

それは興奮でも欲情でもなく、羞恥。

さっきまで霞みかかっていたようにぼんやりしていた頭が、急にはっきりしてしまったのだ。

 

『我に返る』、きっとそう表現できる。

 

 

この期に及んで怖気づいたわけでも、慣れてないなどと通じない言い訳なんてしない。

正直、既に私たちの間では日常であるし、今更特別に感情を入れるものでもないとさえ思う。

 

それでもごく稀にこんな瞬間が来るのだ。

ほんの些細なきっかけ、例えば部屋に迷い込んだ虫の羽音だったり、冷蔵庫に入れ忘れた牛乳の存在だったり。

 

今回で言えば、部屋の気温の低さがきっかけだった。

 

 

急に、男の前で肌を晒して腰を振り喘ぐ自分が恥ずかしくなる。

頭の中で冷静な誰かが、急にその行為のはしたなさを咎めるのだ。

 

 

私のそんな馬鹿馬鹿しい感情は、すぐに男に見透かされる。

以前は何故か目隠しをされた。

他にも逆に自分を慰めてみろと無理な命令をされたり、じゃあいいやとそのまま放置されたこともある。

今度もきっと、彼らしいやり方で私の馬鹿な一瞬だけの恥じらいを苛めるのだろう。

 

「なに」

いつもより言葉に抑揚がなさ過ぎて、尋ねられているのか一瞬分からなかった。

「あの、なんかちょっと今日は…」

怖くて顔が見れない。

男の手の甲が頬に当てられる。体温の差に少し身体がびくりと反応した。

「ああ、お前たまになるよね。これ」

何も言っていないのに、頭の良い男はすぐに私の状態を把握する。

「すみません…」

呆れているのか、怒っているのか。本当に感情のわからない男だ。

「嫌なの?」

今日は、なんだかすっぱりと聞いてくる。

「いやじゃ、ないんです。ただちょっと…恥ずかしいです」

「…なにを今更」

深い溜息が聞こえた。

ああ、今回こそは怒っているのかと恐ろしさで目を瞑る。

 

すると、意外にも男の手が私の頭を優しく撫で始めた。

実は要所要所でこの男はどこまでも私に甘いのだ。

そんな過剰な自意識で視線を男に向け、私はそこでやっと自分の甘さを理解することになる。

 

男の表情は私が見た史上最高の恐ろしい笑顔。

よくわからないが、私は世界一愛しい男に対して己の身の危険を感じた。

 

「じゃあさ、逆やっててみよっか?」

にこにこと笑みを湛えたまま男は私の胸の谷間から喉元まで指をすすっと滑らせた。

背中がぞくりとして、思わず弓なりに反り返る。

「ぎゃく、ですか?」

ぶるりとした震えが下から上がってくる。

頬の熱さは先ほどと意味が変わってきてるのかもしれない。

 

「うん」

短く答えると、男は急に乱暴に私の着衣を取り去る。

明るい電灯の元、私の上半身が男の目の前に晒される。

私は反射的に胸を腕で覆い隠そうとしたが、男の逞しいそれに阻止された。

 

「逆にさ、思いっ切り恥ずかしい感じでヤってみよう?ね」

穏やかな口調で言う男は、以前勉強の為に見たアダルトビデオの男性を髣髴とさせた。

いつもと違い、男はわざとらしく音を立てて私の胸にしゃぶりついている。

 

水音に、耳を犯される。

私は声を出さないように唇を噛み締める。

すると男の指がそれを阻止するかのように、私の唇をいやらしくなぞるのだ。

 

羞恥は限界を超えると、快感に変わるのか。

それとも、この男が私のからだをいつの間にかそういう風につくってしまったのであろうか。

過度な羞恥心によって、普段よりも感覚がむき出しになっているのが自分でもわかる。

 

耳障りな水音も、灯りに晒されている自分の胸も、それを光らす男の唾液も。

全てが直接自分の中に入ってきて、甘い痺れに変わってゆく。

 

聴覚と触覚で煽られて、私は羞恥と快楽の狭間で行き場を失っていた。

「ん・・・や、…あの、はずかしい、です…」

何とか蚊の鳴くような声で抗議すると、舌で私の乳首を弄んでいた男がニヤリと顔を上げる。

「だろうね」

男の顔はいつもの表情そのもので、私に欲情などしていないような気さえしてくる。

 

けれど、さすがにそんなことはないのだろう。

いつもの表情の男は手を休めることはせず、私を苛め続ける。

瞳をじっと見つめられながら愛撫されるなんて、なんて恥ずかしいのだろう。

私は男の視線から逃れるように俯くと、身を捩じらせてなんとか距離を置こうと努める。

 

けれど、全ては無駄な努力だ。

男の手に私の顎が捕らえられ、視線を逸らさせてはくれない。

「…や、めてください…ほんとに、はずかしい…」

本当にやっとその言葉が言えたが、自分の声は驚くほど甘かった。

自分の視界に入る自分の身体がどんどんと紅くなっていく。

 

軽くパニックを起こしているのだろう私の目に涙がじわりと滲んだ。

それを男の舌がぺろりと舐める。

そして、私の腰を自分の方に引き寄せると、耳元で扇情的に囁くのだ。

「恥ずかしいのがね、よくなっていくから。だんだん」

 

 

 

秋の夜長は、まだまだ終わってくれそうにない。