夜道
深夜、煙草が切れそうな真山と、のどが渇いた柴田は珍しく二人でコンビニに出かけた。 「あ〜、気持ちいいですね〜。夜のお散歩って」 「そう?気持ちいいならお前一人で行けよ。ったく何で俺まで一緒に行かなきゃいけないの!?」 「だって〜、夜道の女性の一人歩きって危険じゃないですか〜。いつ危険人物に襲われるかわからないですし」 「女性?どこに女性がいるの?ねぇ、どこ?」 真山がわざとらしくあたりをきょろきょろと見回した。 「もう、ここにいるじゃないですか〜」 柴田が背伸びをして真山の顔を覗き込んだ。 「あのね、『女性』って言うのは、キレーな格好してキレーにお風呂に入っているもんなの。 お前のどこが女性?ねぇ?おしえて、柴田さ〜ん?」 真山がまた、柴田の頭をぐちゃぐちゃにする。 「やめてください〜。真山さんのほうが危険人物っぽいですよ〜」 「危険人物で結構だよ!なんならここで襲っちゃうよ?やっちゃうよ?」 「え?アスファルトはちょっと・・・」 「じゃあ、芝生とかならいいの?」 「芝生か・・・それなら何とか」 ぱちんと真山が柴田の頭を叩いた。 「『何とか』じゃないよ!嫌がれよ! 「いや〜ん真山さんのえっちぃ〜」とか言われて、「いいじゃん。げへげへ〜」とか言う会話を楽しみたいんだよ、俺は」 「ああ、そうなんですか・・・じゃあ、もう一度・・・」 「もういいよ、馬鹿」
「真山さん、真山さん」 柴田が、真山の服の裾をくいっと引いた。 「何?」 「真山さんと手、つなぎたい、です」 「却下」 真山が柴田の手を振り解いた。 「え〜?どうしてですか〜?」 「君が繋ぎたくても、僕は繋ぎたくないの。だから却下」 「そんな〜。真山さんけちんぼー」 柴田がほっぺたを膨らませた。 「けちんぼって・・・お前いくつ?」 「真山さんって、手を繋いだりとか、腕組んだりとかしてくださらないのに、セックスだけはしたがるんですね」 「しょーがないじゃん。男ってみんなそんなもんだよ」 「そうなんですか?私は手を繋いでもらったほうが嬉しいけどなー」 「お前に微妙なオトコゴコロはわかんないよ」 「真山さんにだって、微妙な乙女心わかりませんよ」 「そうですか」 「そうですよ」 真山が柴田の頭に、そっと手を置いた。 その手が暖かくて、きもちよくて。 ま、いいかと柴田は思った。
「真山さん、しりとりしましょう」 「は?なんで」 「だって退屈じゃないですか。やりましょうよ〜。しりとり」 柴田には、本当にオトコゴコロがわかってないなと、真山はため息をついた。 「りす」 「え?なんですか?真山さん」 「しりとりでしょ?『しりとり』で、『りす』」 「あ、そっか。やってくださるんですね〜。じゃあ、『すいか』」 「『かかし』」 「え〜?『し』ですか・・・?し、し、し・・・」 「お前馬鹿?『し』から始める言葉なんていっぱいあるじゃん」 「し、し、し、し・・・」 柴田は物凄く考えた。
「あ、ありました!『しびん』!!」
「お前、しりとりのルール知ってる?『ん』で終わる言葉言ったら負けなんですけど」 「ああ〜!!そうでした〜。私としたことが・・・」 「ってゆうかさ、普通『しびん』って出てないでしょ?普通はね」 「え?どうしてですか?立派な介護用具じゃないですか?」 「そうなんだけどさ・・・イロイロあるじゃん。『鹿』とか『しそ』とかさ」 「あ!『死体』もありますね〜。うっかりしてました・・・」 「普通、『死体』ってのも出てこないもんなんだけどね〜」 「真山さん!普通普通って言わないで下さいよ」 「何?気にしてんの?普通じゃないこと」 「してませんけど・・・なんか比べられてるみたいで、嫌です」 「比べられてる?誰と?」 「誰ってわけじゃあないですけど・・・」 柴田が足をとめてうつむいた。 真山が二三歩先でそれに気づいて止まった。
「しーばた」 真山が、面倒くさそうに柴田に近づいた。 「そりゃあ、真山さんは普通の女性な人とお付き合いとかされてるんでしょうけど・・・」 「何言ってんの?柴田?」 「でも私は、普通じゃないかもしれないけど、真山さんのことを、誰よりも・・・」 「柴田ってば」 真山が、柴田の顔を包み込むようにして上を向かせた。 柴田の瞳からは涙が出ていた。 「何泣いてんの?」 真山が優しく笑った。 そして、柴田の涙の跡をぺろりと舐めた。
「・・・真山さん・・・?」 「誰も、普通の女がいいなんて言ってないでしょ?」 「ヘンな女の方がお好きなんですか?」 「そうも言ってないと思うけど?」 また柴田がぷうと頬を膨らませた。 柴田のとがった唇を咥えるように、真山はキスをした。
「・・・真山さん」 「ん?」 「手を繋ぐのはダメなのに、キスはいいんですか?」 「うん。俺の気が向いたから」 二人で笑いあう。 「じゃあ、もう一回。お願いします」 「かしこまりました」
二人で、夜道を歩くのが癖になりそうだ。 |