water 

 

 

 

たぷん。

真山が手を動かすと、その周りが穏やかに揺れる。

その感触が楽しくて、真山は何度か手を動かした。

 

ここは、とあるラブホテル。

いつものように捜査につき合わされた、真山がつれて来られたのは、地方の何もない都市。

そしていつものように、捜査に熱中した柴田のせいで二人は終電を逃してしまった。

仕方なく、街にぽつんと足っていたこのホテルに泊まる事になった。

 

 

「ラブホなんて泊まったら、経費落ちないんじゃないの?」

「え?部屋取ってから言わないで下さいよ〜」

「いいじゃん。お前金持ってんでしょ?キャリアなんだからさ」

「え?私が払うんですか?一人で全部?」

「あったり前じゃん。誰のせいでこんな時間まで捜査するハメになったか考えろよ」

「・・・普通こういうのって男の人が出すんじゃないんでしょうか・・・」

「それは男がヤりたいだけの時でしょ?別に俺がヤりたくて入ったんじゃないもん」

 

真山が選んだのは、深い青い色をした部屋だった。

部屋の中央にあるのは、ウォーターベッド。

真山はまず、そこに腰掛けた。

柴田はきょろきょろと部屋の内部を捜査のように調べて回ってる。

手の届くギリギリのところにあった灰皿を手元に引き寄せ、真山は背広のポケットから煙草とライターを取り出した。

煙草をくわえたままベッドに寝転がると、天井に海といるかの絵が描いてあった。

「・・・こんなんあったら集中できねーんじゃねぇの?」

真山がぼそりと呟いた。

 

「真山さーん!!凄いですよ、ここのお風呂。ジャグジーがついてます!!」

嬉しそうに、柴田がバスルームから出てきた。

「ん?一緒に入る?」

真山がニヤニヤと柴田の方を見た。

柴田は顔を赤くして頭をぶんぶんと振った。

「ベッドもおっきいですねぇ」

ぺたぺたと柴田が嬉しそうにベッドの方に寄ってきた。

真山は片手だけでくいくいと柴田を手招きする。

それに吸い寄せられるように、柴田は真山の隣に座る。

ウォーターベッドのぷにょぷにょした感覚に少し驚いてるようだ。

「これがウォーターベッドですか」

「・・・初めて?」

「はい。すごい、きもちいいですねぇ」

「ね」

「ウォーターベッドって、眠りが深くなるから睡眠時間が短縮できるそうですよ」

「・・・そうなの?じゃあ俺に買ってよ。ちょーだい」

「え?何でですか?真山さんに買うくらいなら自分で買いますよ」

「お前、最近自分の布団で寝た?」

「・・・いえ」

「ね?お前が持ってても意味ないでしょ?」

「なるほど」

柴田が真山の訳のわからない言葉に納得していると、真山が自分の咥えてた煙草手渡す。

柴田は受取った煙草を、灰皿に置いて火を消した。

そして、水の感覚を楽しむように、腰を浮かせたり、体重をかけたりした。

「ふふ。楽しいですね」

「柴田、やめて。振動がこっちまで来る」

「あ、すみません」

柴田の手首を真山がやさしく掴んだ。

ゆっくりと振り返ると、真山が自分の隣のスペースをたぷたぷと叩いている。

こっちにおいで、と言う合図だ。

「失礼しまーす」

何故かすごく照れ臭くて、柴田が小さな声で呟く。

 

横になると、水の優しい柔らかさが柴田を包んだ。

「・・・なんだかそのまま寝ちゃいそうですねぇ・・・」

柴田は既にうとうとしていた。

そして真山の方にすりすりと擦り寄ってきた。

真山は片眉をぴくりと上げて迷惑そうな顔をしたが、腕をずらして柴田のために場所を空けた。

空いたスペースは柴田がぴたりとはまった。

ずらした腕の収まりが悪くて、真山は柴田の肩に腕を回す。

真山に抱きしめられるような格好になった柴田がふふと小さく笑った。

「何だよ」

柴田の頭上で真山の低い声が響く。

「なんだか、あの時を思い出しますね」

「あの時って?」

「・・・厄神島を出た後、です」

「・・・・」

真山は何も答えなかった。

 

「このベッドって海に浮かんでるみたいです」

「そう?」

「はい。・・・って言っても海に浮かんだことってあんまりないんですけど」

「お前、泳げないんだっけ?」

「だから、余計あの時みたいです」

柴田が真山を見上げるような格好で見つめた。

「いつも、海は怖いんです。溺れそうで。でもあの時は真山さんがいてくれたから、全然恐くなかったです。

・・・むしろちょっと安心しちゃいました」

真山は興味なさそうに柴田から目線を外した。

「・・・真山さん、憶えてますか?」

「何が」

「あの時、私が『掴まっててもいいですか?』って言ったら、真山さんぎゅって抱きしめてくれたんですよ」

「そんなくだらねぇ事は覚えてないよ」

「・・・いいです。私がしっかりと覚えていますから」

柴田がもう一度真山に抱きついた。

 

 

波の音も、透き通った水も、風のにおいも

あの時の気持ちも、真山さんの体温も、腕の強さも。

 

 

「あ〜、あの時、溺れかけた私を真山さんが抱きしめて救出してくたんですよね〜?」

「・・・抱きついてきたのはお前でしょ?」

「やっぱり憶えてるんじゃないですか」

「・・・あ」

「ふふ」

「お前、わざと間違えたね?」

「真山さんは絶対覚えてると思ってましたから」

「・・・なんで?」

「真山さんは、そういう人です」

真山が嬉しそうに、悔しそうに笑った

その動きに呼応するように、たぷんとベッドが揺れた。

 

遠くで、あの時の波の音が聞こえた気がした。