時の過ぎ行くままに 

 

「あんた、真山さんのどこがええの?」

彩が、柴田に突然聞いた。

突然で唖然としている柴田に、彩はあっけらかんと続ける。

「ええやん。今はアタシとあんたの二人っきりなんやから」

・・・確かに今、金太郎と近藤は捜査に行っているし、真山はたった今煙草を買いに出た。

ここにいるのは柴田と彩の2人だけ。

柴田は先程、係長としての雑用が終わったばかりで女二人、暇をもてあましているところであったのだ。

 

「・・・どこがと言われましても・・・真山さんはただのお仕事のパートナーでして・・・」

柴田がしどろもどろに答える。

つくづくウソが下手な女だ。

「・・・なぁ、アタシにまでウソつかんでええやん。付き合ってるんやろ?」

「ですから〜・・・」

「言っとくけどな、バレバレやで自分ら」

「え!?」

「だってやたら直帰するわ、真山さんが素直に捜査に行ったりするわ、アンタの髪はほとんど毎日綺麗に洗われてるわ。

隠したかったらもうちょっと上手くやり」

そう彩に指摘されて柴田はあわてて髪のにおいを嗅ぐ。

「・・・しまった・・・いいにおいがする・・・」

「な?完全犯罪に向いてるわけないやん、この職場。腐っても警視庁やで」

「はい。今後気をつけます・・・」

「ちょお待ちぃな。柴田」

「はい?」

「さっきの質問に答えんかい」

彩がやや凄みのある声で言った。

しかし、超天然の柴田にはおどしは効かないらしい。

「さっきの質問・・・といいますと?」

「だから〜、『真山さんのどこがええの?』って聞いてるの!」

「あぁ・・・その件ですか・・・」

柴田が事務的に答えた。

 

「だってな、優しないし、暴力振るうし、ビンボーやし。車持ってへんし、もうおっさんやし・・・」

彩が指折り真山の短所を並べた。

ここに真山がいたら確実に警視庁で殺人事件が起こっていたことだろう。

 

「なぁ、マジでどこがええの?」

彩が、もう一度言った。

柴田は、それを静かに聞いていた。

 

そして、彩が始めて見る優しい表情でこう言った。

「・・・真山さんだから、いいんです」

 

「・・・ごちそーさん」

それまで身を乗り出して聞いていた彩が、あほらしいと椅子にもたれかかった。

しかし、その表情は晴れやかだった。

 

 

チーン

エレベーターがついた音がして、次に聞きなれた足音が聞こえてきた。

「真山さん、おかえりなさい」

「なんだ、お前らまだいたの?12時過ぎたよ?メシ食いに行けば?メシ」

「あたし今日お弁当やねん」

「あ、給料前だもんなー。貧乏人は辛いねー」

「そういう真山さんはどうなん?ご飯」

「俺?俺は誰かさんと違って金を計画しながら使ってるから。まだ食べに行く余裕あるもんねー」

「・・・柴田にいっつもおごらせてるからやろ?」

「ご名答〜!さ、柴田めし行くよー。めし」

「今日こそはおごりませんからね」

「なんだぁ。それがいつも面倒見てやってる先輩に対する態度か?おい」

「私、係長です。上司です」

「なら尚更。上司ってのは部下にめしおごるモンでしょ?」

「・・・・・・」

「これ以上おごらされたくなかったら、給料上げてね。係長」

 

 

そういいながら2人はエレベーターに乗り込んでいった。

しかし、本人たちはまだ気づいていない。

2人が立っている時、話をする時の2人の距離が出会ったころよりずっと近いということ。

そんな2人を優しく、寂しそうな目で見守る一人の女がいること。

 

けれども、それでいいのかもしれない。

時は、色々なものを優しく変えていくから。

2人の距離も、女の気持ちも・・・