しゃっくり
・・・ひっく・・・ひっく
弐係に小さなしゃっくりが響く。 雑誌をぺらぺらとめくっていた手を止めて、顔をあげた。 震源地は、柴田だ。
ひっく・・・ひっく・・・
「シーバーター、何やってんのよ、アンタ」 彩は椅子ごとくるっと回って、柴田のほうを向く。 「・・・っく・・・彩さん・・・ひっ・・・すみません・・・」 柴田は彩の方を見てそう言った後、口元に手を当てた。 「しゃっくりて・・・子供やないんやから、ちゃっちゃと止めや〜」 「止める・・・ひっく・・・って、どうやって・・・っく・・・やるん・・・ひっ・・・ですか?」 苦しそうに顔をしかめて柴田は言う。 「どうやってって・・・昔から言うやんな〜」 彩はニヤリと笑って言った。 「・・・なん・・・ひっく・・・ですか?」 柴田が彩を見上げる。
「わっ!!」 彩が突然、大きな声を出した。 柴田がその様子をぽかんと見ていた。 「・・・彩さん?・・・っく・・・どう・・・ひっく・・・されま・・・ひっく・・・した?」 「あーもう!!なんやねん!!アンア、びっくりせなあかんでしょう〜?」 「えっ?・・・ひっく」 「しゃっくり治すんはなぁ、びっくりすんのが一番なの!」 「そうなんです・・・ひっく・・・か?」 「常識やろ?・・・こらあかんわ」 「みすてないで・・・ひっく・・・くださいよ〜・・・ひっく」
柴田はすがるような目で彩を見た。 確かに、容赦なく次々と来るしゃっくりに柴田は苦しそうだ かわいそうになって来たので、彩は近藤に聞いてみた。 「なあ、しゃっくり止める方法知らへん?近藤さん」 「冷たい水を一気に飲めば止まるって聞いたことがありますよ?」 「アタシもそれ聞いたことあるわ・・・ちょお、金太郎、水汲んできてぇや」 「は、はい!!」 「金太さん・・・ひっく・・・すみません」
ごっくん。 「・・・どや?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「お、止まったとちゃいまっか?」 「・・・・・・・ひっく」 「もー、だめやんか〜!!金太郎ー!!」 「ええー?わしのせいでっか〜!?」 「・・・ひっく・・・」 「柴田さん、苦しそうですね。大丈夫ですが?」 「はい・・・ひっく・・・すみませ・・・ひっく」 「ああ!!大変や。東大ちゃん」 「はい?・・・ひっく」 「しゃっくりってな、百回すると死んでまうねんて!!」 「えっ!!・・・ひっく・・・どうしましょう・・・ひっく・・・彩さ〜ん」 「もー、大丈夫や。迷信やって。金太郎、アンタ変なこと言わんといて〜」 「でもホントでっせ〜?ワシのばーちゃんが・・・」 「ひっく・・・彩さぁ〜ん・・・」 「金太郎、アンタ黙っときって!!」
「真山さん、何とかしたってー。この子」 自分に抱きつく柴田を引きずる様にして、彩が真山の席までやって来た。 漫画を読んでいた真山が、眉間に皺を寄せながら顔を上げた。 「ほっとけよ。しゃっくりなんて、そのうち止まるでしょ?」 「・・・まやまさん・・・ひっく・・・ひどいです〜・・・ひっく」 「それがなかなか止まらんのよね〜」 「柴田、根性で止めろ」 「無理です〜・・・ひっく」 「ええ方法知らん?なんかかわいそうになって来てなー」 彩が柴田の頭をよしよしと撫でる。 「・・・ひっく・・・」 柴田は泣きそうな顔をしている。 真山は黙ってその顔を見ていた。 そして、読みかけの漫画を片手で押さえ、もう片方の手でちょいちょいと柴田に手招きをした。 「なん・・・ひっく・・・ですか?」 「ちょっと耳かせ」 「何や、内緒話か?」 彩が茶々を入れたが、真山はそれを気にした様子もなく、もう一度手招きをした。 「ひっく・・・何のお話・・・ひっく・・・ですか?」 柴田は首をかしげながらも、耳に髪を掛けて真山の方に近づいた。 真山は少し首を伸ばして、柴田の耳元に近づく。
柴田は何の話をされるのかと、耳を澄ます。 しかし、柴田の耳に届いたのは、真山の言葉ではなかった。
「きゃっ!!な、何するんですか〜!?」 真っ赤な顔になった柴田は、耳を押さえ仰け反った。 「え?え?どうしたん?」 訳のわからない彩が、柴田の顔を覗き込む。 「あやさ〜ん!!」 柴田が助けを求めるように、彩に抱きついてきた。 真山は、涼しい顔で漫画を読んでいる。 「アンタ、真山さんに何されたん?」 彩が尋ねると、柴田が泣きそうな顔になりながら言った。 「耳に・・・フッて」 「は?何て?」 「真山さん耳にね、ふーって息を吹きかけたんですよ〜?」 「はぁ!?」 彩が怪訝な顔で真山の方を見た。 「真山さん・・・変態です・・・」 泣きべそをかきかけながら呟くと、真山が顔を上げる。 「失礼だね、お前。しゃっくり止めてやったんじゃん」 「あ、そういえばアンタしゃっくり止まったなぁ」 今頃になって気づいた彩がのんきな声を出す。 「それはそうですけど・・・私がアレに弱いって知っててするなんて・・・」 「要はびっくりさせればいいんでしょ?俺の機転に感謝して欲しいくらいなんだけど」 真山はしれっとそう言うと、漫画のページを一枚めくった。
「性感帯がむき出しになってるのって大変だねー。お前さ、耳に貞操帯付けたほうがいいんじゃない?」
「!!」 柴田が顔を更に赤くする。 「・・・まだ昼間やで?」 あきれた様子で彩が言った。 「昼間だから手加減してやってるんじゃん。本気出したらすっごいよ?何なら今からでも・・・」 「真山さん!!」 「冗談だよ」
「あー、あほらし」 彩が呟いた言葉は、弐係の他のメンバーの思いと同じに違いない。
「あー、彩さん〜!!見捨てないで下さいよ〜!!」 柴田の必死な声が、しゃっくりの代わりと言わんばかりに、弐係に虚しく響いたのであった。
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