| すべてはあなたの手の中に 神の存在を信じますか? この、あたたかくも冷たい世の中に、すべてを救ってくれるという神は存在するのでしょうか? 「真山さんは神様を信じますか?」 「・・・何?やっぱりインチキ宗教に走ったの?お前」 「『やっぱり』って何ですか?残念ながら私は無宗教です」 「へぇ。じゃあ、お前は神を信じてないの?」 「そういうことになりますね」 「なんかお前そういう空想上のもの好きそうなのに、意外だね」 「そうですか?」 「・・・多分、小さい頃は信じていたと思います」 「ふーん」 「誰かが救ってくれるって信じたかったんだと思います」 「・・・・・・・・いないと思うよ。俺は」 「え?」 「神だよ。お前が聞いたんだろ?」 「ああ。そうでした」 「別に助けてもらおうなんて思ったことないけど」 「・・・それは、神様にってことですか?」 「いや。神どころか他の何にも信じてなかったんだろうね」 「・・・沙織さん以外の全て、ですか?」 「・・・・・・・・・」 「お前はアレでしょ?神様の代わりにアレ信じてるんでしょ?」 「『アレ』ですか?」 「うん。お得意の『旦那さま』」 「はい!いつか私と結ばれる旦那さまが・・・」 「それって、一種の信仰だよね」 「え?そうですか?」 「この世に結ばれるべき相手がいるって信じ込んでいる訳でしょ?」 「はい」 「いないかもしれないじゃん。そんな相手」 「いますよ〜。きっとどこかで私を待ってくれているんです」 「で、そいつと未来永劫幸せに暮らせるってワケ?」 「はい!」 「ほら、なんか胡散臭い宗教みたいだと思わねえ?」 「そう・・・ですか?」 「うん。『どっかにいる神様が幸せにしてくれる』っていうのとどこが違うの?」 「・・・・・・」 「ね?」 「・・・ああ、でもそうかもしれません」 「ん?」 「一種の信仰なんでしょうね。私にとっての『旦那さま』って」 「お。認めんの?」 「はい。よく考えたらそうでした」 「へえ」 「修道女の皆さんが神に身も心も捧げるような気持ちと全く変わらないんだと思います」 「お前にとっての神が『旦那さま』ってコトでしょ?」 「はい」 「いいじゃん。広めてみれば?『旦那さま教』。お前教祖様になれるよ?」 「なんですか?それ」 「うひひひ」 「じゃあ、私は今神様に背いてるんですかね?」 「そうかもね。心はともかく身は先に俺に捧げちゃったし」 「ああ〜!どうしましょう?なんかすごく後ろめたい気持ちです」 「今更すぎるよ。馬鹿」 「あの〜、ものは相談なんですけど・・・」 「何?」 「今から返却って訳には行かないんでしょうか・・・」 「お前ホントに馬鹿だよね。改めて」 「ああ・・・やっぱり・・・」 「でもいいんじゃない?今時結婚する女が処女であることに拘ってるヤツなんかいないって」 「ホントですか?」 「多分ね。旦那さまに会ったときに、聞いてみりゃあいいじゃん」 「そうしてみます・・・」 「ねえ」 「はい?」 「その『旦那さま』ってやつはさ、どうやったらわかるの?」 「え?」 「だから、『旦那さま』とそうでないヤツ。どうやって見分けんの?」 「それは・・・よく言うじゃないですか。『頭の中で鐘がなる』とか『この人だ!ってピンと来る』とか・・・」 「・・・ふーん」 「あ、今馬鹿にしましたね?」 「今頃気付いた?」 「意地悪・・・」 「お前は初対面のヤツをすぐ信じて身も心も捧げるの?勇気あるね〜」 「運命ですから」 「あっそ」 「あ、今また馬鹿にしましたね」 「馬鹿にしたんじゃないよ。呆れてんの」 「もう!」 「あ、真山さん」 「ん?」 「真山さんは出会ったことないんですか?運命の人に」 「出会ってたら、週末に上司とセックスなんかしねぇよ」 「そうですか・・・」 「ああ一人だけ、いたね」 「えっ!?その人と上手く行かなかったんですか?」 「いや?いったよ」 「え〜?初耳です・・・」 「8年・・・9年くらいの付き合いだった」 「すごーい!」 「・・・わかんない?」 「え?私の知ってる人ですか?」 「神じゃないね。その反対」 「・・・神の反対・・・?」 「朝倉だよ」 「・・・」 「ああいうのも『運命』でしょ?」 「・・・そうですね」 「真山さん」 「ん〜?」 「あの時、私何を信じたか知ってます?」 「・・・いるわけない神でも信じた?」 「いいえ」 「じゃあ、何?」 「真山さんです」 「・・・・・・・」 「あの時、私は正義でも真実でもなく、真山さんだけを信じました 私にとって真山さんだけが唯一信じられる神様だったんですよ?」 「・・・つくづく頭悪いよね。お前って」 「・・・はい」 「真山さん」 「・・・もう寝ろよ」 「はい。一つだけ」 「何?」 「今もです」 「何が?」 「私は多分、今も真山さんの事、信じてます」 「へぇ」 「だから、『旦那さま』も許してくれますよね?私が真山さんに身を捧げた事」 「・・・お前、言い方古いよ?」 「そうですか?」 「自覚しろ。そして寝ろ」 「はい。おやすみなさい」 「そのまま起きなくていいからな」 「もう〜!!」 神なんて、この世にいない。 いたら、不公平を失くすはずだ。 例えば、今の俺の幸せを、誰かに。 でも今は、このままでいたいから、俺は神の不在を喜ぶ。 |