しあわせな死
からだがだるい。 息が苦しい。 尋常ではない痛み。
すぐに、悟った。 ああ、俺はこのまま死ぬんだ。 今までも幾度かは感じたこの感じ。 けれども、今回は違う。 今までよりも、更に深く、重い。 ああ、俺は本当に死ぬんだ。
それは、本能。 頭ではなく、体で感じていた。
隣を見ると、女が寝ていた。 青白く、細い女。
「・・・柴田・・・?」
その女の名を呼ぶ。 ・・・返事はない。
また、本能が悟った。 こいつも死ぬんだ。
手で鼻を覆い、女の呼吸を確かめる。 息は、していない。 冷たいからだ。
・・・ああ、コイツはもう死んだんだ。
柴田が、死んだ。 俺が全身全霊をかけて守ろうとした、女が死んだ。 以前にも同じことがあった気がする。 もう一人、大事な女を失ったあの場所で。 あの時、俺は泣いた。 大きな声で、彼女の名を叫びながら。
けれども、今の俺にあるのは「安堵感」 人は、俺を酷い男というのかもしれない。 けれども、これは俺にしかわからない感情だ。
柴田が、死んだ。 もう、柴田を朝倉から守る必要はない。 そして、俺ももうすぐ死ぬ。 俺は、柴田のいないこの世界で生きなくてもいいんだ。 そう思うと、ほっとした。
もし、俺が先に死ぬことがあったら、 柴田を朝倉から守ることが出来ない後悔でいっぱいだっただろう。
もし、柴田があの時死んでいたら、 俺は柴田のいない世界で生きることの辛さに耐え切れなかっただろう。
でも、今は違う。 もう柴田を危険に晒す事はないし、俺ももうこの無意味な世界を生きなくてもいい。
死に、幸せも不幸せもないけれど。 これが、俺にとって一番幸福な死なのかもしれない。
一瞬、意識が遠のく。 あぁ、もう終りなんだと感じた。
そして、残り少ない力を振り絞って女を抱いた。
あの世のことなんか、知らない。 あっちで一緒に、なんて思っているわけではない。
だけど、せめて、一緒に―
こんな姿、弐係の連中が見たらなんて言うのだろう? まあいいか。どうせ俺、死ぬんだし。 案外、二人が一緒にいること、みんな喜んでくれるかもな。
だんだん、目の前が真っ暗になってきた。
―おやすみ、柴田―
そう、声にならない声を出した。 力の入らない手で、腕で、彼女を抱きしめながら。
「んっ・・・」 目が覚めると、真山さんに抱きしめられていた。 真山さんは、まだ夢の中。 寝相が悪い私たち。 いつもは、同じベッドで寝ていても好き勝手な方向を向いている。 なのに、今日はどうして?
軽く首を傾げると、真山さんがくすぐったそうに笑った。 無邪気なその寝顔は、いつもの「眉間に皺」の真山さんと同一人物には見えなくって。 ふふ、と笑ってしまう。 いい夢でもみているんですか? すごく、幸せそうな笑顔をずっと見ていたい。
けれど、見ているうちになんだか愛しくなっちゃって。 そっと、首を伸ばしてキスをした。 触れるか、触れないかのキスは、物足りないけど優しくて。 とても満たされた私は、そっと真山さんの胸に顔をうずめた。
このまま、眠ったら天国にいけるでしょうか? きっとあなたとなら、どこだって楽園で、いつだって永遠。
一つだけ、贅沢を言えば。 死ぬ前は、あなたの顔が見たいな。 しっかりと、胸に刻んで わすれないように。
あなただけを。
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