おしおき

 

 

 

「真山さん・・・」

 

女の声に、男が顔を上げる。

 

「何、恥ずかしい?」

男は冷静に応えた。

 

「恥ずかしい、です」

もぞもぞと女が動く。

その動きが男を煽るのを知らないのだろうか。

 

 

 

男のアパートの中、狭い風呂場。

曇った室内に、二人はいた。

 

女は全裸で、男は着衣で。

その差が、女を辱める。

それに男は気づき、且つ気付かない振りを続ける。

 

 

男が女の身体を洗う。

とても丁寧に、慈しむ様に。

 

そしてとても卑猥に、体中を嘗め回すように。

 

 

女の身体を泡とタオルが滑る度、女は少し苦しそうに顔を歪める。

まるで一枚ずつ服を脱がされている様な羞恥心が襲うのだ。

 

「真山、さん」

苦しそうに女がもう一度訴える。

「・・・何?」

男が漸く手を止める。

 

「自分で、できますから・・・」

搾り出すような声がして、男は少しだけ唇を歪めた。

「恥ずかしい?」

先程と同じ質問を投げかけ、女の顔を見ながらわざと胸の膨らみをタオルで擦る。

「・・・やっ・・・」

女が身を固く捩じらしたのを見て、男は嬉しそうに笑う。

そのまま、タオルを床に音もなく落とし、直接手を滑らせていく。

「気持ちいい?」

低音の問いかけに女は顔を歪めながらも、無言で首を横に振る。

 

 

天井から、雫がぽたりと床に落ちた。

その音と女のくぐもった声が浴室に響く。

 

女の身体が桜色に染まっていく。

白い泡と男の指が女の身体の上を滑り、女の体温をまた上げる。

 

 

「悪いけど、手だけね。苦いから、泡」

胸の頂点を摘むように弄び、男は感情の篭っていない言葉を並べる。

女は耐えるように片手を唇で少し噛んでいる。

男はそれに気づいて女の手を唇から離し、その指に自分の舌を絡ませる。

「やっ・・・真山さん・・・」

色香を帯びた女の声が浴室に響いて、男を悦ばせる。

わざと音を立てて吸い、ゆっくりと唇から離す。

濡れた唇と音が女をまたひどく煽った。

「興奮する?・・・変態」

今日の男はどこまでも冷静だ。

「・・・してません」

反抗する女を男は目を細めて見つめる。

 

女は逃げるようにその場から一歩退き、男はその隙を逃さない。

空いた場所に一歩踏み込み、身体を密着させる。

「逃げんの?」

近距離で見つめられ、女は目を逸らせてしまう。

 

「今日の真山さん・・・怖いです」

まだ火照ったままの顔でそう答えると、壁際まで追い詰められていることに気付く。

女の言葉と態度に満足したように笑うと、男の手は下腹部を這って行く。

「・・・ぁ・・・やだ・・・」

「嫌なの?」

「・・・んっ・・・あぁ・・・」

どんどん進入してくる男の指に、女は逆らえない。

「ちゃんと濡らしてるじゃん」

低く囁き女を更に煽らせ、それから男はゆっくりと指を引き抜いた。

 

「・・・まやま・・・さん?」

女の瞳が不安そうに男を見つめる。

すると男は先程までの冷徹な表情をやめ、いつもの顔に戻った。

女にしかわからない表情の変化だ。

「はい、終わり」

「・・・え?」

呆気に取られている女の顔を男の手が優しく撫で、ゆっくりと男の体が離れていく。

 

男は何事もなかったかのようにシャワーを手にとり、蛇口を捻る。

「・・・真山さん?」

もう一度女が問いかけると、男は柔らかい表情で答える。

「おいで。泡流すよ、泡」

「え?」

言葉に誘われるように歩み寄ると、肩から優しい水流が女の身体を滑っていく。

 

「お仕置きだよ、お仕置き」

ニヤニヤと先程とは違う種類の笑みを浮かべて、男が言った。

「おしおき・・・?」

「お前がね、あんまり風呂入らないから、お仕置き」

後ろを向かされた女の身体に、シャワーを当てていく。

「さっきのが・・・お仕置き・・・?」

腑に落ちていない女が誰にともなく呟いた。

すっかり泡のなくなった女の身体を、男はもう一度自分の方に向かす。

 

「ううん。これからだよ、これから」

「・・・え?」

きちんと揃えられた脚の根元を、また男の手が蠢く。

「・・・あっ・・・まやまさんっ・・・」

女がまた声をあげる。男は微かに開いた隙間から手を滑り込ませた。

「・・・ん・・・やぁ・・・」

暫くすると女の口から甘い喘ぎが聞こえ、男はまた手を離す。

 

 

そして、女の顔を見て、満足そうに笑った。

「ここまでされておあずけって・・・いいお仕置きでしょ?」

 

 

「・・・え?」

女は呆気に取られて、その場で立ちすくむ。

 

 

すると男が女の身体を抱えるようにして、風呂場の外に連れ出した。

狭い脱衣所に行くと、男が無造作にバスタオルを女の身体に掛けた。

「俺さ、これから風呂入るから。お前邪魔なの、ね?」

びっしょりと濡れたシャツを洗濯機に放り込む。

「一緒に入んねえよ、狭いから。じゃあねー」

着ているものを脱ぎ、男はさっさと風呂場に戻って行った。

 

女は訳も解らず立ち竦む。

ぽたぽたと落ちる雫と、火照った身体。

女が恐る恐る自分の胸を触ると、期待に満ちた胸はつんと主張をしていた。

泣きそうな顔で女が自分の身体を拭いていると、浴室から声が聞こえた。

 

 

「上手にお願い出来たら、一緒に入ってやってもいいよー」

男のその一言で、女は表情を輝かせた。

 

 

 

男の長いお仕置きは、これから始まる。