寝不足

 

 

 

「ふあぁ」

その日の柴田は欠伸が多かった。

珍しく、大好きな捜査の時にまで、何回か欠伸をするのを真山は見ていた。

 

そして、真山の家に帰ってきた今もなお、欠伸ばかりしている。

「ふあぁぁ〜」

真山の部屋の中で、もうすっかり柴田の居場所として定着している水槽の前で、柴田がまた大欠伸をした。

「五回目」

真山もまた、すっかり定位置になっているベッドの上で煙草をふかしながら呟く。

 

「はい?」

「5回目なの。ウチに来て欠伸したの。・・・お前眠いの?」

「え?そんなことありませんよ」

真山に気を遣ったわけでも、誤魔化そうとしたわけでもなさそうに柴田が答える。

「じゃあ何?退屈?」

「めっそうもない!・・・ただ、なんていうか体を休めたいって言う感じですねぇ」

「それを眠いって言うんじゃないの?」

「あ、そうなんですかー。そういえばあまり意識して眠ったことってないですねぇ、私」

柴田がぼんやりと答える。

「ホンモノの馬鹿だね、お前」

真山が馬鹿にしている風でもなく、あきれてるわけ風でもなく言い放つ。

慣れているのか、柴田もさして気にする風でもなく、床にころんと横になった。

 

「しーばたー、こんなとこで寝るなよ?」

「・・・は〜い・・・」

「風呂は?お前昨日も入ってないでしょ?」

「・・・そういえば・・・そんな気もしますね〜」

「そんな気もじゃないよ!臭いの!お前さぁ、毎日毎日悪臭かがされてる俺に身にもなって?」

「・・・む〜・・・」

「こらっ!馬鹿っ!寝るなよ!死ぬぞ?とんびが攫いに来るぞ?寝たら死ぬぞ?しーばーたー!!」

柴田が寝転んだお陰で、丁度よく真山の足元に柴田の頭があったため、真山は足でげしげしと柴田の頭を蹴った。

もぞもぞと、柴田が頭を真山の攻撃から守るように庇った。

そして真山の方にゆっくりと振り返る。

 

その動きが、あまりにもゆっくりで、真山はまるで動物のようだと思った。

 

煙草をくゆらせながら、目を細めて柴田を見つめる真山を、柴田が甘い声で呼んだ。

「まやまさん」

 

それは、まるで雌の動物が雄を呼ぶ、求愛の鳴き声のようだ。

真山は、またそう感じた。

眠そうなため、目が潤んで、熱っぽい顔でこちらを上目遣いで見るその仕草は、どう見ても、発情期の雌の動物であった。

 

まぁきっと、この女は自覚なしにやっているんだろうけれど。

 

「まやまさん」

もう一度、柴田が真山の名を呼ぶ。

「なんだよ?」

真山は平然とした素振りをみせながら、短くなりすぎている煙草を、灰皿に押し付けた。

「だっこ、してください」

ああ、やっぱり雌が雄を呼ぶ、求愛の声だった。

真山は一人納得をして、ゆっくりと立ち上がり、そして柴田のところにしゃがみ込んだ。

 

そして、静かに柴田を抱きかかえる。

「ふふふ・・・」

柴田が幸せそうにふわりと微笑む。

そんな柴田の顔に、真山がそっと影を落とす。

「まやまさ・・・」

柴田が目を瞑る。キスのときはそうしろと、この男から習ったのだ。

 

ゴッチーン

柴田の脳天にいつもよりも強い衝撃が走る。

「いった〜〜!!な、なんですかぁ〜!?」

「『何ですか』じゃないよ!!調子に乗んな!馬鹿!!」

「だからって・・・頭突きだなんて・・・酷いです〜!!」

「ああ!俺は酷い男だからね!!。よーし、次はお前を捨てに行くよ?明日は燃えるゴミの日だしね〜」

「え?人間って燃えるゴミなんですか?」

「知るかよ!ってかさ、反応する所違うでしょ?」

「え?・・・あ!もしかして明日は燃えないゴミの日なんですか?」

「・・・もういいよ。お前、もう寝て?ってか永遠の眠りについて?」

「え?でも・・・」

「何?なんなら俺、手伝うけど。三途の川ツアーに行くの」

「先ほどの頭突きで、眠くなくなっちゃいました・・・」

すまなそうな顔で真山を見る柴田を見て、今度は真山がにやりと笑った。

 

「・・・真山さん?」

「じゃあ、今日も寝不足決定ねー」

「え?え?」

「よーし、抱っこでもキスでもセックスでも何でもしてやるよ、柴田」

「ちょっ・・・まやまさ〜ん!?」