内緒話

 

 

 

警視庁の地下。

暇を持て余す女二人と男一人。

男は暇を持て余しすぎて、デスクに突っ伏して居眠りをしている。

女その一は、ぱらぱらと興味なさそうに雑誌をめくり、

残る女も一応仕事をしようとしているようだが、眠気で集中できていないようだ。

 

一人の女が、もう一方の大きな欠伸をしている女のほうをチラリと見た。

 

「なー、柴田」

「はい?何でしょう?彩さん」

「アンタ、本当にセックスしとんの?」

「・・・え!?」

「いや〜、想像出来ひんのよね〜。柴田と真山さんがいちゃいちゃしてるところ」

「なっ!?・・・何言ってるんですか?彩さん!」

「えーやん、えーやん。どうせ近藤さんとアホの金太郎、捜査でおらんし」

「そうじゃなくって・・・職場ですし・・・」

「えーやん。真山さんも寝てるし?・・・って、やーらし」

「・・・何がですか?」

「あれやろ?二人で眠いっちゅー事は・・・寝かせてもらえへんってことやろ?や〜ら〜し〜!!」

「・・・どうしてもそっちの方向にもって行きたいんですね?」

「うん。ヒマやもん。終業時間まであとちょっとやから、逆に何も出来んし」

「私、一応係長なんですけど・・・」

「係長のエロ話聞きたいです〜」

「エロじゃないですから・・・」

「あ!逃げよった。このすっぽんの彩さんから逃げられると思ってんの?アンタ」

「・・・だって、別にエロくないと思うんですよ。実際」

「まぁ、アンタとエロは確かに結びつかんよな〜」

「はい。自分でもそう思います。他の人より淡白といいますか・・・あまり喘いだりしませんし」

「まぐろなん?アンタ?」

「『まぐろ』・・・不感症なんでしょうか?私」

「知るか!真山さんは何て言うとんの?」

「それがですね、真山さんってばわたしの事をエロいエロいって言うんですよ〜」

「じゃあエロなんちゃう?」

「うーん・・・私そんなにセックス好きじゃないですよ?」

「そうなん?まー、初心者やしな。アンタ」

「あー、それもあるかもしれません」

「どうやった?初めての時、痛かった?」

「え・・・それが、あんまり記憶ないんですよねー」

「記憶にないんやったらそない痛くなかったちゅーことやないの?」

「・・・そうなんでしょうか?彩さんはどうでした?」

「あ?アタシ?痛かったでー。なんせ相手も初めてやったからな。めちゃくちゃや。最初穴間違えよって、アイツ」

「あな・・・!?」

「まぁ、エロ漫画とかにあるベタ〜な間違いや。洒落にならんかったで。痛くて」

「そうなんですか・・・?」

「まぁ、その点アンタは真山さんやったからな。ラッキーやったんとちゃう?」

「どうしてですか?」

「まぁー、それなりにおっさんやし。あんま若くて元気良すぎんのも処女には辛いんちゃう?

よく言うやん。指をこうやって広げた角度、親指が10代で人差し指が20代・・・真山さん中指かー。直角やん!!あははははは!!!」

「なるほど・・・これが10代・・・」

「あー、でもおっさんになればなるほどエッチがねちっこいらしいからな。真山さんは大丈夫やった?」

「え・・・どうなんでしょう?比べる相手がいないのでなんとも・・・」

「アンタはそうやろなー。まぁ、でも基本体力なさそうやし。ねちっこくはなさそうやな」

「はぁ」

「ちゅーか、真山さんエッチの時はどんなん?こっちも想像できへんのやけど」

「うーん、別に変わりないですよ。普段と」

「ほー。言葉責めとか想像してたんやけどなぁ」

「しませんよ。あ、でもちょっとだけ優しいかもしれませんね」

「のろけてくれるやないの」

「あ・・・でも、セックスしてる時の真山さん・・・やっぱりいつもと違うかもしれない」

「ん?なにが?」

 

「あのですね、普段真山さんを見ると、こう・・・きゅーっとかはぁーっとかそういう気持ちになるんですよ」

「乙女やなぁ、アンタ」

「でもね、そういうときの真山さんって・・・なんていうか・・・ゾクっとするって言うか・・・ドキッとするって言うか・・・」

「あー、わかるわかる」

「こう・・・一瞬、息ができなくなるんですよ。それからぎゅってしたくなるんです」

「わかりにくそうで的確やわ。アンタの説明」

「あ、大抵そう感じた時かもしれません。真山さんにエロいって言われるの。

あー、私やっぱりやらしいんでしょうか」

「それはアンタちゃうわ。真山さんがエロいんや」

「え?」

「真山さんがアンタ相手にフェロモン出しまくっとんのや」

「フェロモン、ですか?」

「そー。アンタはそれにつられてるだけちゃう?『そそられてる』ちゅうか」

「あー、なんとなくそんな気がしてきました」

「化学反応や。真山さんがアンタにフェロモン出して、アンタがそのフェロモンに反応する」

「奥が深いんですねぇ・・・セックスって」

「そーそー。ただの体液の交換やないんやで。特に愛があるとな?」

「愛・・・かっこいいです!彩さん!!」

 

その時、女たちの会話しか聞こえなかった弐係に、電子音が響いた。

「何の音ですか?」

「あー、ケイタイや。アラーム。今日近藤さんのパソコン電源入ってへんから、定時にアラームなるようにセットしたんや」

「あ、じゃあもう定時ですか?」

「そうやなー。じゃ、アタシ帰るわー。ええ退屈しのぎになったわ。ありがとなー、おつかれー」

「あ、お疲れ様でしたー」

 

女がウキウキとした様子でエレベーターに乗り込んだ。

残された女は、その姿を見送ると、正面のデスクですっかり寝入ってる男を見た。

 

「真山さーん!!定時ですよー。起きてくださーい」

「・・・うるさいよ。そんな大声出さなくても起きるって」

男がのそりと起き上がった。

よく眠れたのか、機嫌が良さそうだ。

 

「もう定時過ぎました。彩さん帰っちゃいましたけど、真山さんはどうします?」

至極真面目な顔で、男に尋ねる女を男はにやりと不適に笑い、見上げた。

「・・・あのさ〜、柴田」

「あ、私はもうちょっとだけ残って・・・」

「そうじゃなくってさ、一個言ってもいい?」

「何ですか?」

 

「お前さ、セックスの時のちゃんと喘いでるよ?」

 

その一言に、女の顔が真っ赤に染まる。

「まぐろじゃないね。うん。逆に感度いいほうじゃない?」

「・・・真山さん・・・まさか・・・」

「あー、それからさ、先に俺を誘うのお前。自覚ないの?最近二人になるとフェロモンすごいよ?君」

「・・・最初から・・・全部・・・?」

「さっさと帰るよー。あんな話聞かされてたら、ちょっとやりたくなっちゃうよねー、柴田」

 

 

「真山さんの意地悪〜!!!」

女の叫び声だけが、空しく地下の倉庫にこだました。

 

意地悪く笑う、男の笑顔にほんの少しだけフェロモンを感じたのは、ここだけの内緒の話。