メロウ この部屋は、こんなに静かだったろうか。 …いや違う。 冷蔵庫のうなるようなモーター音。 金魚のいる水槽のポンプの音。 それから、防音効果のあまりなさそうなドアから聞こえる廊下に響く足音。 近所の道路工事の騒音。 色々な音があったはず。 それなのに、私の耳にはその音たちが届かない。 聞こえるのは、耳に残る粘着音。 それから、男のシャツと私のシャツが擦れる音。 「んん・・・」 私が小さく呻くと、男が顎を引く。 完全に唇は離れない。息継ぎをして、また吸い寄せられるように唇を合わせる。 舌がそのまま進入してきて、私の舌を絡め取る。 私は上を仰ぎ、顎を開け、もっと欲しいとねだる。 私と男の唾液がまたぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てた。 頭がぼうっとしてきて、口腔からとろけそうになる。 まだ、だめだ。 こんなところでは溶けたくはない。 他の、もっと奥の方で溶けたい。 なんとか留まりたくて、男の首に巻きつけていた腕に力を入れ、襟の後ろを掴んだ。 それに気づいた男が、脇の下で私を持ち上げ、抱きなおしてくれる。 私は男の膝の上に座った格好になった。 普段はくるぶしまであるスカートが、膝の上までめくれ上がっていた。 早く直さなくてはと、頭の中の冷静な部分が言う。 なんのために?快楽に溺れたい頭の中の大部分が反論する。 何に対して清純でいたいの? 何に対して恥じらうの? 曝け出せばいい。 隠す必要はどこにもない。 この人なら、きっと受け入れてくれる。 本能も、欲も。 綺麗な振りをして、どこまでも淫らな私のことも。 膝上まで上がっているスカートの中に、冷たい手が入ってくる。 私は手を男の首に手を回したままで、その様子を見ていた。 男は私の顔を見たまま、感覚だけで進入してきた。 暫く指がうごめいて、私の頬が赤くなっていくのが自分でもわかる。 また粘着音が、耳に届く。 男の目が私の表情を伺っている。 私は目を逸らさず、男の顔を負けじと見つめた。 その様子に男が唇の端を上げる。 指が奥に入ってきた。 「・・・ん・・・」 思わず声が漏れて、また男がにやりと笑う。 「いい?」 その問いかけは、気持ちいいかを聞いたものだったのか、それとも挿れていいのかを聞いたものだったのか。 私にはわからなかったが、どちらでも構わなかった。 目を瞑り、私は黙って頷いた。 指がまた奥に入ってくる。 ぎゅっと腕に力を入れて、男の顔が見えないほどにしがみついた。 なんだか少し、悔しかった。 指がゆっくり、私の中から出て行った。 男が腰に手を回して、私を膝の上からベッドの上に降ろした。 片手を添えながら、ゆっくりと私の体を倒す。 「なあ、離して。腕」 私の体が完全に横たわった時に、男が静かに言った。 それに答えずに、私は男の顔を見つめる。 「離せって。このままじゃ続き、出来ないよ?」 少し困ったような男の顔が可笑しくて、私は少し笑顔で頭を横に振った。 「・・・あのね」 呆れた口調で男が言う。 「このままじゃ、脱げないでしょ?」 私は笑いながら、上半身をめいいっぱい浮かして、触れるだけのキスをする。 「煽んなって」 笑いの比率が多い苦笑いを浮かべて、男は私の背中に手を回す。 すっかり冷めてしまった熱を、もう一度呼び起こすようなキスが降りてくる。 キス一つで体の芯まで熱くなるのは、この男のせいだ。 愛なのか、欲なのか。 それとも、両方。 あなたの中で、 あなたと一緒に、 今度こそ、溶けてしまおう。 「ねえ、真山さん」 「ん〜?」 「人間って、溶けたらどうなると思いますか?」 「…は?」 「溶けるわけないとか言わないで下さいよ?」 「…溶けるわけないじゃん」 「も〜」 「…溶けるって言うからには、液体になるんじゃないの?」 「なるほど」 「何?お前、溶けたいの?」 「はい…と言うか、さっき溶けました」 「は?」 「あー、でもよかった」 「何が?」 「溶けて液体になるなら、一つになれますよね?」 「・・・溶けれるものならね」 |