これ以上の幸せ

 

 

 

大きく息を吸って、止めて。

真山は一気にその動きを早めた。

柴田の眉間に皺が寄る。

白い胸が段々と反ってきて、まるで何かに押し上げられているかのように体が持ち上がってくる。

より一層、奥を目指す。

柴田が瞼をぎゅっと閉じ、首が限界に近いほど反らされた。

「・・・んっ・・・」

一度だけ甘い声を漏らし、そのからだはゆっくりとベッドに沈んでいく。

痙攣を伴う体に、一瞬、虐めている様な感覚を覚えたが、その表情を見てすぐその考えは変わる。

一旦、登りつめたからだはどんな刺激でも敏感すぎる反応をする。

真山はその感触を楽しみながら、自身の快感に溺れて行った。

 

 

柴田の体を手放す。

彼女はゆっくりと胸の中の空気を吐き出すように、深い呼吸をした。

数回繰り返すと、あとはぐったりと人形のように横たわる。

瞬きをするのも面倒だ、と言いたげに瞼を閉じる。

真山が抜く時だけ、かすかに腰を浮かす。

それだけしか動かない。

寝返りも一切しない。

その間、真山は後始末をする。

もともと後戯をあまりしないので、彼女のその習慣は丁度良かった。

 

真山は始末を終えて、ベッドの方に戻る。

柴田はまだ、じっと横たわっている。

その様子を見て、真山は安心したようにベッドの端に腰をかけた。

床に置いていた煙草を手にとって、そのうちの一本を咥えた。

 

ごそりと動いた音がしたので、振り返ってみる。

柴田がうっすらと目を開けてこっちを見ていた。

「気持ちいい?」

煙草を咥えながら訊くと、柴田はゆっくりと笑って少しだけ頷いた。

真山も満足そうに頷いて、前を向いた。

ライターで煙草に火をつけ、大きく息を吸い込む。

灰皿は、どこにあっただろうかと考える。

 

 

以前、どうしてセックスの後にじっとするのかと聞いたことがある。

すると彼女は言った。幸福を味わっているのだと。

絶頂を迎える時は、快感が強すぎて、そこにだけ集中してしまうけれど、

その後にじんわりと襲ってくる快感の余波と幸福感が柴田は好きなのだそうだ。

しかも、その感覚は動いてしまうと何処かに消えていってしまうらしい。

だから、人形のようにじっとしてそれを味わっている。

言っている事と、口調が伴わなくて可笑しかったことを覚えている。

 

 

台所に灰皿を置いていたことを思い出し、真山は裸のまま取りに行った。

再びベッドのところに戻ると、柴田が目を開けていた。

快感の余波と幸福感は一旦、収まったらしい。

こちらを見ている柴田を無視して、真山はもう一度腰をかけた。

「・・・真山さん」

背中越しに声を掛けられても、真山は特に答えない。

「真山さん」

もう一度、柴田が言った。

彼女は毛布で体を隠し、上半身を起こしていた。

「何?」

真山が短くなった煙草を咥え、振り向いた。

柴田は何も言わず、にっこりと笑った。

よくわからないのでとりあえず、真山は柴田の頭を撫でた。

それから、じりじりと体の向きを変えて、柴田と向き合って座った。

その動作を見て柴田がすすすと寄って来る。

柴田はそのまま真山の胸に顔をうずめた。

毛布を挟んで真山と柴田が抱き合う。

真山は柴田の髪に煙草が付かない様に手に持ち替えた。

 

「・・・真山さん」

「んー?」

柴田の腕に力が入る。ふたりの体が密着した。

「なんか・・・幸せですね」

しみじみに言った柴田の言葉を聴いて、真山が答えの代わりに笑った。

 

 

真山はこの程度が幸せなのかと、一瞬思ってしまったけれど

よく考えると、これ以上幸せなどないと納得してしまった。

 

右手に煙草、腕の中には愛しい存在。

他に何が必要だというのだろう。

 

 

 

「・・・あとは、あれだね」

「なんですか?」

「俺用にバナナと柴田サン用に調書があれば完璧だね」

真山の言葉に、柴田がくすりと笑った。