コンビニエンス

 

 

 

「あ、煙草もうないじゃん」

真山の家まで二人で帰る途中、真山が呟いた。

「真山さん、吸いすぎじゃないですか〜?」

隣で、柴田が顔をしかめながら言った。

「一日一箱は絶対吸うじゃないですか〜」

べちん。

真山の掌が柴田のおでこで良い音を立てた。

「柴田、そこの自販機で煙草買ってきて?煙草」

「・・・人の話全然聞いてないですね?」

ぬけぬけと言い放つ真山に、少し赤くなったおでこを摩りながら柴田が軽く睨みつけた。

 

「やっぱいーや。ライターもなくなったから、コンビニ行こうぜ、コンビニ」

真山が放ったその一言に、柴田の瞳がらんらんと輝く。

 

「コンビニですか!?」

 

「・・・お前、コンビニ好きだよね」

呆れたように真山が言った。

柴田は、何の変哲もないコンビニでも異様にはしゃぐのだ。

「はい!楽しいじゃないですか〜。大好きです!」

真山は軽く頭を捻った。

「・・・やっぱりヘンだよ、お前・・・」

 

 

ウィーン。

自動ドアが開いて、真山と柴田はいつものコンビニに到着した。

「あっ!真山さん真山さん。なんかいい匂いしません?」

「おでんでしょ?書いてあるじゃん、そこに」

「あ〜、もうそんな季節なんですね〜!」

柴田はいちいち驚いて、目を輝かせている。

くんくんと匂いを嗅ぎながらおでんの鍋に近づいていく柴田の頭を、真山はぺちんと叩いた。

店員が苦笑いしていた。

 

「いいか?くれぐれもヘンな行動するなよ?」

誰もいないエロ本コーナーの前で、真山が柴田に教育的指導をする。

「・・・はい。すみません」

柴田は一応、しゅんとして反省をしているようだ。

それでもきょろきょろと柴田が店内を歩き回る。

真山はすっかり保護者の気分でその後ろを歩いていた。

 

「あ、真山さん。なんかお茶におまけついてますよ〜」

「このチョコレート、真山さんお好きでしたよね?」

「シュークリームとエクレア、どっちが好きですか?」

柴田の興味はちっとも尽きないようで、次から次へと質問をしてくる。

真山は、そんな柴田の様子を見て、あることに気がついた。

 

「ねぇ、お前さ、コンビニデビューっていつ?」

「え?コンビニでデビューできるんですか?」

「・・・初めてコンビニに来たのって、いつかって聞いてんの」

「ああ、そういう意味ですか・・・・」

「で、いつだよ?」

「・・・・・」

「まさか、最近じゃないよね?」

「・・・・・・・・・実は・・・」

「やっぱり・・・」

真山は、改めて柴田を見た。

「・・・お前さ」

「なんでしょう?」

「本当に現代人?」

「え?」

「ホントはさ、別の時代からタイムスリップとかしてきたんじゃないの?」

「めずらしいですね。真山さんがそういう非現実染みた事発想なさるとは」

「・・・だって、じゃないとおかしいもん。何だよ、コンビニデビューが二十歳過ぎって・・・」

「まぁ、いろいろな人がいますから」

「お前が言うんじゃないよ」

「・・・・・・・すみません」

 

ちょっと気まずくなったので、柴田は目に付いた箱を手に取った。

「真山さん、この箱なんでしょうか?」

「ん?見て分かるじゃん。コンドーム」

「えっ!?な、なんでこんなところに売ってるんですか?」

「緊急時になかったら困るじゃん。その辺でベビーラッシュだよ?」

「・・・確かに」

「何?買っとく?まだ家にあるけど」

「いいえ、結構です・・・」

 

ますます空気を悪くして、柴田は手にしていた箱を置いた。

真山はくっくと意地悪く笑いながら、柴田の頭を軽く叩いた。

「他に買うモンあるの?」

柴田が持っているかごの中には、結構な量のお菓子や飲み物などが入っている。

「あ、もう大丈夫です」

柴田は、かごの中身を見ながら言った。

どうせ、適当に目ぼしいものを買っただけで、特に何が欲しかったわけじゃない。

「あっそ。じゃあ、金払って帰るよ〜」

真山がすたすたとレジに向かう。柴田はその後をパタパタと着いていった。

 

レジの所にカゴを置く。

店内の色と統一された制服を着た店員が、カゴの中の商品を一つ一つ取り上げて、バーコードで読み取った値段を声に出していく。

「あ、おねーさんおねーさん。あと、マルボロ1個ね。それとライターも」

店員は「はーい」と愛想のいい声で返事をして、後ろにあったマルボロを手に取った。

「こちらでよろしいですか?」

銘柄を真山に見せて確認させる。

「うん。あとね・・・」

真山の視線の端に、販促の小さな旗が目に入った。

「肉まんちょーだい」

「お一つでよろしいですか?」

おねえさんが笑顔で聞くと、柴田が真山の服の袖を摘んだ。

真山が振り向くと、柴田がきらきらした目で訴えかけてる。

「いるの?」と真山が目だけで聞くと、「はい!」と柴田が頷いた。

「・・・じゃあ、二つ。カラシは一個だけつけて」

「はーい」

店員は、手際よく肉まんを二つ包んだ。

お菓子類とタバコとは別の小さなビニール袋に入れてくれる。

柴田は、嬉しそうにその袋を受取った。

 

会計を済ませ(もちろん柴田の財布から)、コンビニを出る。

出た早々、真山は柴田の手から袋を取り上げた。

「あー、肉まん〜」

「何だよ。自分の分しか食べないよ?」

肉まん一個とカラシの袋だけを取って、後は柴田に返す。

「え?今食べちゃうんですか?」

「今食べなくていつ食べんの?」

「だって・・・買い食いですよ?」

「・・・・お前ね、今時小学生でもそんなこと言わないよ?」

「え?でも、買い食いはいけませんって先生が・・・」

納得できなそうな柴田に、真山は言い聞かせるように言う。

「いいか?部屋に帰ってあったかいところであったかいもん食うよりさ、寒いところであったかいもん食った方がいいでしょ?」

「・・・・あ〜・・・」

柴田は複雑な顔をしている。

「あー、別に嫌ならお前は後で食べたら?俺は今食うよ」

真山はほかほかと湯気の出る肉まんにかぶりついた。

もぐもぐもぐ。

真山が食べるのを柴田がじっと見つめる。

「・・・おいしいですか?」

「うん。うまいよ?」

「・・・・・・」

「お前も食えば?ほら」

「・・・でも・・・」

「いーから食べてみろって」

真山に促され、柴田は肉まんをじっと見た。

それから、遠慮がちにぱくりと一口。

「ど?」

「おいひーれふ」

むぐむぐと一生懸命噛みながら、柴田は答えた。

「でしょ?」

真山が得意気に言った。

「なんか・・・お家で食べるより、おいしいですね〜!!」

感動した柴田の様子に、真山がうんうんと頷いた。

「今まで、買い食いなんていけないことだと思って、やった事なかったです〜」

「お前はさ、アタマ硬いんだよ」

「そうなんですかね〜」

「そーそー。イケナイことのほうが面白かったり、ウマかったりすんの」

「・・・なるほど」

柴田が頷く間に、真山は肉まんを平らげていた。

くしゃくしゃになったゴミを柴田に渡して、真山は先を歩き始めた。

 

その背中を見ながら、柴田が言った。

「真山さんって、美味しいものとか楽しいもの、いっぱいご存知ですね〜」

「・・・柴田さんが知らなすぎるだけでしょ?」

「そうなんでしょうか?」

「そーなんです」

ちょこちょこと柴田が小走りになって、真山の隣に並んだ。

 

「じゃあ、真山さん色々と教えてくださいね!」

にっこりと柴田が真山の顔を覗き込んだ。

真山が一瞬、考え込んでそれからにやりと笑みを浮かべた。

「・・・まぁ、そのうちね」

「よろしくお願いします」

 

あまりにも素直に返事をする柴田のデコを、真山が笑いながらもういちどぺちん、と叩いた。