本能

 

 

 

「あんたは心が綺麗やなぁ。憧れるわ。」

いつか、彩に言われた言葉。

 

自分もそうだと思っていた。

嫉妬はしないし、物欲もあまりない。

綺麗というより無欲で邪心がないのだ。きっと彩もそういう意味でいっているのだろう。

そう、今までの私は無欲で「綺麗」な女だったはずであった。

 

しかし、こうして男を求め、誘っている姿はあまりに欲深くて。

たとえそれが心から愛した男であるとしても、どこか後ろめたい思いは消えない。

貴方と出会い、私ははじめて自分の中の本能を知った。

嫉妬深くて、欲張りな自分。

そんな自分は存在しないはずであった。

けれども私は確かに「女」で。しかもその辺にいるような浅ましい女。

こんな自分がとても嫌いで、けれども貴方に愛されていると思うといとおしくてたまらなくなる。

 

 

深いキスをして、ベッドにふたり、倒れこむ。

いつもの言葉や態度からは想像できないほど貴方は優しくて、それが私を虜にする。

「柴田」

耳元で囁く声に頭が痺れる。

言葉に出来ない想いがあふれそうになって貴方の長い首に絡みつく。

貴方の腕が私を抱き返す。それだけで涙が出た。

深いキスが音を伴う軽いキスに変わり、彼の唇が動き出す。

初めは唇に、そして瞼。顎のライン、そして首筋。

自然に目を閉じて彼の唇の感触を味わう。

 

ふと、彼の動きが停まる。

「・・・真山さん?」

「ぺっ。またこれ食べちゃった」

「あぁ・・・カメオですか」

「なぁ、これ外さないの?」

「・・・麻衣子が私にくれたものなんです。外したくないんです」

「あっそ。なんかさ、お前怖くないの?」

「何がですか?」

「そのカメオ、おまえにとっては大沢麻衣子そのものみたいなものでしょ?」

「はい。これのおかげで麻衣子といつも一緒にいるような気がしてますが」

「な?ってことは俺とお前がこ〜んなことしてるの見られているような感じしない?」

「・・・そういわれてみれば・・・」

「ね?外さない?」

「・・・そんな事いったら、その金魚だってそうじゃないですか?」

「は?金魚?」

「・・・それって沙織さんの形見ですよね?沙織さんに見られているような気がしませんか?」

「お子様には刺激が強いかな?」

そういって彼は背広を拾って水槽に掛けた。

「これでいい?お嬢様」

「はい」

私が満足そうにうなずくと、彼が目を細くして近づいてきた。

そっと首に手を回し、不器用そうにカメオを外す。

そして、無骨な指でそっとカメオを撫でた。

 

その瞬間、私の胸に嫉妬が芽生える。

親友であった麻衣子がこの瞬間だけはどうしようもなく妬ましい。

ただ、彼女の分身のカメオを彼が撫でただけなのに。

 

彼の手からカメオを奪い、床に置く。

そして彼にキスをした。まるで、自分のものとしるしと付けるかのように。

唇を離して彼の目をじっと見つめる。

「何?嫉妬?」

「・・・・・・」

何でも知っているといった悪戯っぽい目で彼が見返してくる。

「沙織にか?大沢麻衣子にか?」

まるでしかられた子供のように、シュンとうなだれた。

「大沢麻衣子には会ったこともねぇし、沙織は妹だしなぁ。ヤキモチ妬かれても困るんですけど」

「・・・ヤキモチ妬いちゃ、駄目ですか?」

「別に。いいんじゃない?」

「良かった・・・」

「お前はつくづく、本能のまま突き進む女だねぇ」

「そうですか・・・?初めて言われましたが」

「自分でそう思わない?誰がなんと言おうとさぁ、やりたいこと絶対やるだろう?お前。

捜査したい時は捜査して、セックスしたい時はセックスして、嫉妬したい時は嫉妬して」

「そう・・・かもしれません・・・」

 

以前彩から言われたこととは正反対のことを言われているようで、同じことを言われているような変な気分だった。

 

けれども、綺麗だろうが醜かろうが、無欲だろが、欲張りだろうが私は私で。

整理しきれない思いも含めて、私は私のまま生きていかなければならない。

この人の傍で。

 

やがて、考えている間もないほど快楽の波が私に押し寄せてきて。

そんなことはどうでもいいやと、その波に溺れるとする。

 

たとえ、どんな私でもこの人は受け入れてくれるだろうから。

たとえ、どんな私でもこの人と一緒なら生きていけるから。