その瞳に映るもの
「お前さ、それって癖?」 「はい?」 「そのさ、人の話を聞く時、目を真っ直ぐに見るの」
「あぁ、これですか?小さい頃から両親に言われているんです。 『人と話をする時には相手の目を見て話すこと』って」 「…へえ」 それは、子供の頃誰もが言われたであろう事。 しかし、実際は大人になっていくにつれ、守る事が出来なくなるものだ。
「人の目を見て話すことのできない方って、どこか心にやましい事があるそうですよ」 柴田が、やはり真山の目を真っ直ぐに見て話す。 しかし、真山は柴田の目をすぐに逸らす。 「そう言うけどさ、みんなそんなモンじゃないの?」 誰だって、やましい事はある。 それを隠す為。やましいことがある時とない時の境界線をぼかす為。 人は相手の目を見て話すことをしなくなるのだ。 なのに、何でコイツは人の目を真っ直ぐ見る事が出来るのだろう? きっと怖いもの知らずか、物凄く純粋であるのかのどちらかだろう。 ま、前者だろうね。 「お前さ、怖くない?人の目を見て話すこと。」 「いいえ?」 …やっぱ前者か。
柴田が、静かに続ける。 「罪を犯した方って、ほとんどの方が私から目を逸らすんです。 けれども、稀に真っ直ぐ見つめ返す方もいらっしゃいます。 その方たちのほうが、心に深い闇を抱えているんです。 まっすぐに私を見つめ返す方は助けを求めているんだと思います」
「…お前さ、いつもそんなんで疲れない?」 それまでつまらなそうな様子で柴田の言葉を聴いていた真山が唐突に言った。 それでも、柴田は臆することなく、真っ直ぐに真山を見ている。 そして、静かに、けれどもはっきりと答えた。 「私は、刑事ですから」
「でもね、真山さんの目を見るときは、少し緊張します」 「は?何で?」 真山は思わず柴田の目を見た。 「真山さんの目って、今まで私が出逢った方の中でも、一番深い目をしていらっしゃるので」 悲しみ、痛み、辛さ、孤独… その言葉の全てを合わせても真山さんの瞳の色には足りない気がします。 そのくらい、深くて、暗い。
「何それ?クサいね、お前」 真山は他人事のように笑った。 「はぁ。でも、そう思うんです」
「真山さんがどういう風に考えていらっしゃるのか、真山さんの目に私はどう映っているのかわからなくて、いつも緊張するんです」
「一生、緊張しておけ」 真山はぺちんと柴田の頭を叩いて歩き始めた。
そんなの、わかられてたまるか。 俺の、お前に対するこの想い。 俺の中に潜む狂気。 一生、言う気はないからね。
だって、手に入れなかったら、一生失う事はないだろう?
もう、沙織の時のようなあんな思いはしたくないんだ。
一つ我が儘を言わせて貰えば。 「誰のものにもなるなよ」 それで俺は満足だから。
自分のモノにしようとしなくても、心が勝手に求めてしまった彼女を あの河原で失いかけて、彼が酷く後悔するのは もう少し先のこと― |