昼行灯

 

 

 

何も予定のない休みの日は、ずっと眠っていたいのが本音だ。

 

たっぷり取った睡眠のおかげで、非常に目覚めはよくて。

ベッドの中で真山は頭を掻いた。

隣では、すうすうと寝息を立てる柴田。

自分が貸した、少し大きめのスエットの首元から見える鎖骨が無防備で軽く笑う。

触れようとして、寝顔の無邪気さに思いとどめた。

この、あまりにも気持ち良さそうな寝顔に何度見とれただろう。

悔しいので、絶対口には出さないが。

 

自分の感覚が正しければ、もう昼近くだろう。

平日なら目が覚めれば直ぐにベッドから出るのだが、今日は休日なので、すぐに出る気にはなれなかった。

昨日事件が解決するまでは働きづめだったし、何よりも最近は気温が低いので温かいベッドの中から出る気にはなれなかった。

 

寝返りを打って天井を見る。

大きく息を吐き出した。

 

このベッドは一人用の大きさで、二人並んで眠ればもちろん狭いのだが、そんな中でもリラックスする術は身につけたらしい。

むしろ、このベッドで一人寝る時の方が眠りが浅い。

睡眠一つとっても、他人にこれだけの影響を持っていることをこの女は知っているのだろうか。

なんだか、自分だけがこの女に嵌まっている様で、口惜しくなる。

 

腹が立ってきたので、真山は掛け布団を自分の方に少しだけ引っ張った。

柴田の左肩が布団から出る。

暫く放ってみる。

すると、眠ったままの柴田が暖を求めてずりずりと寄ってきた。

もうちょっと、布団をこっち側に引いてみる。

また暫くすると柴田がずずずっと真山の方に寄ってきた。

真山はなんだか面白くて、それを何回か続けた。

そのたびに、ずりずりと寄っては来るものの、一向に目を覚ます気配のない柴田の生態の不思議さを再確認しながら。

 

とは言え、狭いベッドの中での遊戯なだけに、すぐに限界は来た。

ベッドの隅っこギリギリに追いやられた真山と、布団を追いかけて寄り添うような形になった柴田。

嫌がらせのつもりだったのに、逆にこっちが追い詰められたようで、真山は舌打ちをした。

 

いつもこんな感じな気がする。

追い詰めているつもりで、実は追い詰められているのはこちらの方。

多分、自分はこの女よりも強く、この女は自分よりも強い。

矛盾だが、そうなのだ。

 

「ん〜」

柴田が小さく唸って、また寄ってきた。

これ以上寄ってしまったら、二人一緒にベッドから落ちてしまう。

真山は仕方なく、すやすやと眠る柴田のおでこをぺちんと叩いた。

少しの間があって、柴田の瞼がゆっくりと上がる。

「・・・あ〜・・・まやまさ〜ん?」

とろーんとした寝起きの顔は、これ以上なく間抜けだった。

「あー、じゃないよ。起きろって」

「・・・おはようございます〜」

柴田はよほど眠いのか布団の中でもぞもぞしている。

「おはようじゃないよ。もうお昼」

「じゃあ、こんにちは〜」

「そういうんじゃなくってさ、ちょっとあっち行ってくれない?ギリギリなんだよね、こっち」

取り急ぎ、状況を説明する。

しかし、柴田は「んー」と唸りながら猫のように目をこすっている。

真山はそれを見てため息を一つつき、仕方がないので柴田をごろりと転がした。

狭いベッドの中で、柴田は目をこすりながら横に一回転した。

「あー、わかったー。イモムシさんごっこでしょう?」

柴田が顔ごとこちらに向ける。

「何だよ、それ」

ふふと小さく笑った柴田が、もう一度転がってまたもとの位置に戻ってきた。

「・・・おい、何してんの?こっちもうギリギリなんだって」

真山が眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。

「えへへー」

言葉と雰囲気が分からないのか、柴田は嬉しそうに笑っている。

「あっち行ってってば。しーばたー」

もう一度、真山が柴田のおでこを叩く。

「いやですー」

柴田は寝転んだ体勢のまま、真山に抱きついた。

「遊んでるんじゃないの。いいからちょっとだけ向こう寄って?ね?」

呆れた様子で諭す真山を柴田は抱きつきながら見あげた。

「真山さんと離れたくないです。だから、嫌です」

「・・・なに言ってんの?ここの中だけでしょ」

「それでも嫌なんです〜」

柴田が改めてぎゅっと真山に抱きついた。

寝ぼけているというよりも酔っ払っているという感じだ。

 

「も〜、しーばーたぁー」

真山が柴田を剥がそうと肩を掴む。

柴田はぐりぐりと真山の胸に自分の頭を押し付けた。

「・・・なにしてんだよ」

真山も段々と可笑しくなって来たらしい。少し笑っている。

「えへへ〜」

柴田も真山を見上げてしまりなく笑う。

敵わないと、観念した真山が諦めたようにため息をついた。

するりと手が伸びてきて、柴田の鼻がぎゅっと掴まれた。

「いったーい」

「お前がなかなか言う事きかないからでしょ?お仕置きだよ」

真山がなるべく、ぶっきらぼうに言う。

「愛のムチ、ですか?」

「ううん、ただのムチ」

「またまた〜。照れなくてもいいですよ?」

「照れてねぇよ」

 

拗ねたような真山の声に、柴田がまたうふふと笑った。

「・・・何だよ」

真山が不機嫌そうに柴田に訊いた。

「真山さんって、時々子供みたいですよね〜」

「はぁ?」

「時々ね、『かわいい』って思います」

柴田は嬉しそうで、幸せそうに笑う。

「・・・あのね、男は『かわいい』なんて言っても嬉しくなんてないの」

「そうなんですか?」

「うん」

「でも、褒めてるんですけどね〜?」

柴田が首をかしげた。

「・・・じゃあ、気持ちだけもらっておくよ」

「そうしてください」

真山は呆れた表情で、柴田は満足気に微笑んだ。

 

柴田の腕が体から首に移動をした。

真山は、柴田の意思を汲み取って、寝転んだままの姿勢で、自分の方に引き上げた。

目線が同じ高さになり、柴田はじっと真山を見つめる。

しばらくにらめっこを続けていたが、珍しく真山が音を上げた。

照れて、視線を逸らす真山に、柴田が呟く。

 

「・・・やっぱりかわいい・・・」

 

 

 

ほら、やっぱりずっと寝てれば良かったんだ。

起きていると、ろくな事がない。

ホント、ろくな事が。