光の差すほうへ 

 

 

 

 

何も見えなかった目。

やっと見えるようになった瞳は、一体何を映すんだろう。

 

 

「・・・ねぇ、レイジさん」

鮮やかな赤いニットを着た亜子が、隣にいるレイジを見上げた。

「ん〜?」

独得の、亜子にとってはずっと道しるべだった声でレイジが答える。

それを聞いて亜子は嬉しそうに微笑むと、前を向いた。

 

「私の目が、見えるようになって嬉しい?」

 

その問いかけにレイジの歩みが止まった。

それに気付いた亜子がレイジの方を振り返る。

「レイジさん・・・?」

レイジをじっと覗き込むような亜子の目。

レイジはそれが嬉しくて少しだけ笑って答えた。

「嬉しいよ、亜子」

 

 

あ、声が低くなった。

レイジさんが真面目になるときの声のトーン

私は、自分だけが知っているその秘密にうふふとまた笑った。

 

目が見えなかったときは、自分がとても不幸で、惨めな人間に思えた。

けれども、こうして目が見えるようになった時、初めてそんなことはなかったんだと気付いた。

 

例えば、レイジさんの声。

高くなった時は、おどけている時。

低い時は、ちょっと真面目な時。

機嫌がいい時は、少しだけ大きい。

ほんの、少しの違いだけど。

目が見えなかった分、それを感じることが出来ていた気がする。

今は、声の違いが大きい時しかわからなくて少し寂しい。

 

「亜子、俺も、聞いていい?」

「・・・なあに?レイジさん」

 

「俺の顔、想像してたのと違った?」

 

目が見えなかったとき、一度だけ触れたことがある。

顔に触れて、温かさを知って。

私は初めて目が見えないことが初めていいことだと思った。

 

その時に感じた温かさと、レイジさんの顔の形。

何度も思い描いて、想像をした。

 

「違ったよ」

「え〜?え〜?どんな風に〜?」

レイジさんがはしゃいだように聞き返す。

 

「・・・もっと、寂しい目をしてると思ったの」

恥ずかしくなってレイジさんの方じゃなくって前を向く。

「でも、ホンモノのレイジさんは優しい目だった。すごく」

さわっただけじゃ、レイジさんの目の優しさなんてわからなかった。

ゆっくりと歩き出すと、レイジさんも同じ歩調でついてきてくれた。

 

微妙にずれたレイジさんと自分の足音を、目を閉じて聞く。

すこし引きずってずりずりと気だるそうに歩くレイジさんの足音。

この音も、とても好きだった。

 

 

なんだ、私ってば目が見えなくっても、いっぱいシアワセを見つけていたんだね。

 

 

「・・・私は、ちょっと残念だな」

「ん〜?何が〜?」

もう一度、レイジさんのほうを振り返る。

「目が見えるようになって」

「亜子・・・?」

 

「目が見えなかったら、堂々とレイジさんの手に掴まりながら歩けるから」

 

ふっとレイジさんが優しく笑った。

ああ、でもこんなレイジさんの笑顔を見れただけでも、目が見えるようになってよかったな。

・・・どっちにしろ、私はとても幸せだったんだね。

 

 

「そんなのさぁ?目が見えても出来るじゃん」

レイジさんがゆっくりと私に近づいてくる。

 

つんつん。

レイジさんの肘が私の腕をせっつく。

これも、大好きな仕草だ。

 

「・・・いいの?」

レイジさんの顔を見上げると、呆れたようにレイジさんは笑っていた。

「どうぞ?お姫様」

 

恐る恐るレイジさんの腕に自分の手を乗せる。

懐かしい感触に、ほぅっとため息が出た。

 

「あーあー、何やってんの〜?亜子〜」

「・・・え?」

レイジさんが私の手を取って、自分の腕に絡ませた。

 

「恋人同士はね、こうなんだよ」

 

 

今わかった。

私が幸せだったのは、目が見えなくても幸せをいっぱい見つけられたのは、

あなたと会えたからなんだよね?

 

あなたを、愛しているから。

あなたが、愛してくれているから。

 

この瞳はずっとあなたを映し続ける。

一緒にある私の幸せも。

 

 

光をありがとう、レイジさん。