| Doll その手は、その声は、その行為は、どこまでも私を駄目にする。 触れるだけで、囁くだけで、抱かれるだけで思考回路が飛んでいって 私はたちまち人形になる。 ただ、あなたのためにこの世に存在する人形。 「・・・してる?」 「え?」 「ちゃんと息、してる?」 言われてはじめて気づく。 「・・・忘れてました」 「馬鹿…」 呆れた様に、でも嬉しそうにあなたが笑った。 口角が上がったままの唇が、ゆっくりと降りてくる。 感触を楽しむ余裕なんて、一切無い。 私は、あなたの掌の上で玩ばれる人形。 意識も、感覚も無くていい。 あなたが私を感じてくれれば、それでいい。 「…お前さ」 「はい」 「意識、ちゃんとしてる?」 「あんまり…」 「…ちゃんとしとけよ」 「だって・・・」 「勿体無いじゃん。ね?」 「そんな余裕、ありません」 「何?俺、急ぎすぎ?」 「そういうんじゃなくって…」 あなたの手が、私の肩をなぞる。 それだけで、全身がゾクゾクする。 何も感じられないと言っている癖に、体のあちこちが敏感に反応する。 私の体は矛盾だらけで、それでいてしあわせだ。 「頭の中がいっぱいで、よくわからないんです」 「許容量いっぱいか」 また笑うあなたの目尻の皺がとても好きだ。 頷いて、腕を伸ばす。 二人の距離を埋めてしまえば、どこか安心する。 あの顔は、心臓に悪すぎる。 すると、キスの代わりに耳をぺろりと舐められた。 ひゃっと活字に現し難い声を上げると、小さく笑い声が聞こえた。 「パンクしちゃいます・・・」 唇を尖らせて私が言うと、耳元に今度は吐息を感じた。 「俺もだよ」 あなたには似合わない、甘い台詞。 思わずくすりと笑ってしまった。 ゆっくりと体を離され、もう一度あなたの顔を見る。 「失礼なヤツだね、お前」 言葉では怒っているけれど、顔は怒っていない。 「すみません…」 私も口だけで謝ると、上目使いであなたを見た。 「真山さんが慣れない事、言うからじゃないですかー」 「そう?」 「そうですよ〜?甘い言葉とか口説き文句とか、真山さん言ってくれないじゃないですかー」 「それはお前の認識不足じゃない?」 「え?」 「いつも口説いてるつもりだよ」 「…誰をですか?」 「柴田サン」 あなたの言葉に一瞬、私の思考回路が止まる。 「・・・ホントですか?」 「気づかなかった?」 「はい」 「柴田サンの気を引くためにね、毎日必死なの。俺」 「知らなかったです…」 私がまた呆然とすると、心臓に悪い瞳が、じっとこちらを見ていた。 「…冗談だよ」 おでこにキスをされ、鎖骨をゆっくりと舐められる。 「どれが?」 「ん?」 「どの言葉が冗談なんですか?」 少し間があって、あなたの声が聞こえた。 「頭いいね、お前」 私の腰をあなたの手が掴む。 ゆっくりと深く動かされ、私の意識は、また私のものではなくなった。 許容量からこぼれ落ちそうな感情を、上手く支配出来そうに無い。 けれど、あなたのくれた感情を、ほんの少しの欠片でも失ってしまうのはすごく嫌だった。 感情とは別に、感覚が声を上げる。 その声は、あなたに届いているんだろうか。 あなたに向けた、どんな私の欠片でも、あなたには受け取って欲しい。 あなたの腕の中のあなたのための人形は、 すごく馬鹿で、傲慢で、いやらしい女だけれど あなたのことをすごく好きです。 それだけは確かだから、どうか安心してください。 私はもう、とっくにあなたに堕ちているんだから。 |