優希へ 

 

 

 

優希、元気ですか。

 

この手紙を君が目にするのがどんな季節で、自分がこれを書いてからどのくらい後かわからないので、それぐらいしか書けない。

君の住所も電話番号もわからないから、こうしてまり子さんの元に預からせてもらった。

無事に君が読んでくれる事を信じている。

 

 

あの事件の後、君が書いてくれた手紙は確かに俺の元に届いた。

手紙を読んですぐに、俺も松山まで行ったのですが、やっぱり君はいなかった。

 

君が行けなかったという双海病院と石鎚山に行ってきた。

あの頃抱いていた印象と随分違って戸惑ったけど、いくつかの場所が確かにあの場所であると俺に訴えかけているようだった。

 

その後、北海道で行われた奈緒子の葬式に出席し、今は田舎で俺を引き取って育ててくれた両親と暮らしている。

思えば、彼らが俺を引き取ってくれてからずっと、俺は無理をしていだと思う。

彼らのためにいい子になりきろうとしていた。実際はいい子ではいなかったと思うけれど。

あの人たちは、本当に平凡で普通な人たちで。

純粋に俺がかわいそうだと思って、きっと俺を愛そうとして育ててくれたのに、

俺は平凡に慣れていなかったので、上手く行かなかったんだと思う。

でも、今なら上手くやっていけそうな気がするんだ。

奈緒子との生活の中で、一瞬だったけど平凡な幸せを確かに感じたから。

 

君にこんな事を言っても困ると思うけれど、俺はちゃんと奈緒子を愛していた。

そして、奈緒子も俺を思ってくれていた。

だけど、俺のほうが全てを曝け出す覚悟も勇気もなかったんだ。

自分の傷を知られてしまう事が何よりも怖かったんだと。

結果、身動きがとれずに奈緒子をあんな風に死なせてしまった。

彼女のことを思うと、今でも胸がきりきりと痛むよ。

 

 

少し年老いた両親は、ほとんどお互いを支えあって生きているように見えるんだ。

それを見ると、俺も伴侶が欲しいと柄にもなくそう思ってしまう。

今はまだ無理だけど、いつかそうなれればいいと思う。

 

 

優希、俺がこの手紙を書いたのは、君にどうしても言いたい事があったからだ。

いや、言いたい事というよりは、個人的なお願いだけど。

 

笙一郎の事。

あれから、いろいろ考えてみた。

アイツは、きっと器用に見えて、一番不器用だったんだと思う。

親の事、そして君の事。

全てを吐き出しきれずに、だんだんと内側から蝕まれていったんだろう。

それでもアイツは優しいヤツだったから。

君を連れて行かずに、一人で逝く事を選んだんじゃないかと思う。

 

今でも君は、笙一郎にとらわれてはいないだろうか。

父親の時と同じように、また自分を責めてばかりいるんじゃないだろうか。

君からの手紙を読む限りでは、そういった感情は見受けられないけれど、

君がまた抱え込んではいないかと心配でならない。

 

笙一郎にとらわれないでくれ。

もしも、君の支えになる人が出来たら遠慮なくその人の元に行ってくれ。

それが、君を連れて行かなかった笙一郎の願いであると俺は確信している。

 

だけど、どうか笙一郎を忘れないでやってくれ。

アイツが生きた証はもう、俺と君の中にしかないのだから。

そんなやつがいたと、心の片隅にでも置いてやってくれないか。

 

勝手なお願いだけど、どうかよろしく頼む。

 

 

俺が預かった笙一郎の骨は、あのクスノキの元に帰したよ。

笙一郎の人生の中で一番安心した場所だと思うから。

あの場所で、あいつはきっと穏やかに眠っている。

少なくとも、俺はそう信じている。

 

 

こうして、君に手紙を書いてみると、どうして君が俺に手紙を送ってきたのかがわかる気がする。

文字にするだけで、気持ちに整理がつくような気がするし、きちんと説明がつけられる。

 

俺は今でも君が大切だ。

君がいなくなってしばらくは、どこかで君に会えないだろうかときょろきょろと道行く人を見回したものだ。

君に会いたかった。その気持ちは変わってはいない。

けれど、以前は君を近くに感じていなければ発狂しそうだったけれど、今は違う。

君がどこにいてもいい。どこかで生きていてくれれば、それでいい。

あの頃の君とモウルの言葉さえあれば生きていける。

そう思えるようになってきた。

 

これも一つの成長なんだろうか。

君が言っていた様に、僅かでも成長していきたいと思うよ。

 

 

最後まで読んでくれてありがとう。

これがきっと君への最初で最後の手紙になるだろう。

 

いつか、またどこかで出会えたら。

そのときはお互いに笑って挨拶が出来ることを願っている。

 

 

 

有沢 梁平