墓前
がちゃり。
自分の部屋の鍵を開ける。 ノブを回して、そのまま中へ・・・と思ったら、扉が開かない。 少し考えて、ああきっとあいつだと思い、もう一度鍵を取り出す。
がちゃり。
二度目のその音がして、ノブを回すと漸く扉が開いた。
部屋の真ん中には、うつ伏せに横たわる女が一人。
靴を脱いで、部屋に上がりその足で女を蹴った。 「死ぬなら、他のところでやって?面倒じゃん、後始末」 ごろん、と女が仰向けになった。 「あ、真山さん。おかえりなさ〜い」 のそのそと女が起き上がる。
「不法侵入。何してんの?休みの日に人のうちで」 がさがさと、コンビニの袋をその辺に置く。 「何買ったんですか?ご飯、ありますか?」 柴田がハイエナのように袋の中をあさる。 バチン。柴田の頭を叩く。 「漁るなよ!ってか何してるの?って聞いてるんですけど、俺」 「いたた…もう、びっくりしましたよ。真山さんおうちにいらっしゃらないから」 「なんか用かよ?」 「いえ、別に用って訳では・・・どちらに行ってらしたんですか?」 コンビニの袋の中から煙草を取り出し、その一本に火をつける。 柴田の鼻の前に左腕を差し出す。 「なんですか?」 「臭わない?俺?」 くんくん。柴田が犬のように匂いをかいだ。 「お線香・・・?」 「そ」 コンビニの袋を持って、中のものを冷蔵庫にしまう。
「・・・沙織さんのところですか?」 「うん。墓参り」 「お盆、過ぎたじゃないですか?」 「お盆なんか行ってられるかよ。人がうじゃうじゃしてさ」 手に買ってきた水と、柴田用のお茶のペットを持ってベッドに座る。 すみません、と柴田がお茶を受取る。
「割とマメに行かれてるんですか?お墓参り」 「別に? ・・・ただ、お盆の時ってさ他の墓がお供え物だの、花だの線香だので色々あるのに、アイツの墓だけ何にもないのってかわいそうじゃん」 「なるほど・・・」 柴田がお茶をこくんと一口飲んだ。
「沙織さんと何か話しました?」 「いや。掃除してやっただけ」 「今度・・・」 「ん?」 「今度は、私も一緒に連れて行ってくださいね」 柴田が、真っ直ぐ俺のほうを見ていた。 よく見ると、少し緊張しているようだった。 俺はフッと笑うと水を一口飲んだ。 「何で?」 からかうように、柴田に尋ねた。 「沙織さんと話がしてみたいんです」 柴田はうつむいてぼそっと答えた。
「嫌だね。どうせ俺の悪口言いたいんだろ?」 「ばれましたか・・・あいた。冗談ですよ〜」 「当たり前でしょ?ったく、ロクな事言わなそうだね、お前は」 「褒めちぎりますよ〜?素敵なお兄さんですね、とか」 「いいね〜」 「いつも面倒見ていただいて・・・実は立場としては私のほうが偉いんですけどね?とか」 「後半は余計」 「後は・・・」 「何だよ」
柴田が、お茶の入ったペットボトルをぎゅっと握り締めた。
「あなたが、羨ましいです」
「・・・何で?」 「だって、いつも真山さんに想ってもらえてて・・・。沙織さんは、幸せですね」 少し寂しそうな横顔に、俺は少し見とれてしまった。
ベッドから降りて、柴田を後ろから抱きかかえる。 「な、なんですか?」 「いや、泣かれたら面倒くさいなーって思って」 「泣きませんよ」 「どうだかね」 よっと柴田を抱えてぐるりと回転させる。 柴田と俺は座ったまま、向き合う形になった。
「幸せなんかじゃないよ、きっと」 「沙織さんが、ですか?」 「だってさ、生きてるほうが幸せでしょ?」 「死んだら、終わり・・・でしたっけ?」 「そう、全て終わり」
柴田が遠慮がちに俺に抱きついてくる。 「真山さんは・・・死なないで下さいね?」 「・・・縁起悪いこと、言わないでくれる?」 「お願いします・・・」 優しく、柴田の頭を叩く。 「だから、泣くなって」 「泣いてませんよ」 柴田が顔を上げた。 その顔に涙はなかったが、不安を沢山抱えているのが手に取るようにわかった。
「ばーか」 それだけ呟いて、柴田にキスをする。 「しっかりしろよ。俺はここで生きてるから」 「・・・はい」
『沙織、久しぶりでゴメンな。そっちはどうだ? こっちは、まぁ何とかやってるよ。きっとお前のことだからどっかで見てるんだろうな。 あ、枕元には立たなくていいから。マジで。いい年しておねしょなんかしたくないからさ。 笑うなよ。真剣なんだからな?わかった?
沙織、俺にお前の他に大切なものが出来たって言ったら、お前はどう思う? きっと、喜んでくれるんだろうな・・・ でもお前絶対びっくりするよ?だってありえねーんだもん。そいつ。 どんくさいし、方向音痴だし、頭いいくせに要領サイアクだし・・・ でもきっと、俺にとってなくてはならない人、なんだと思う。
あー、照れるね。何かこういうことってさ。 今度、気が向いたらそいつ連れてくるよ。
じゃあ、また来るから。 いいか?くれぐれも化けて出てくるなよ?いい? じゃあな、沙織』
|