アルコール
シャワーを浴びて、部屋に出る。 のどが渇いて、冷蔵庫に向かう。 手に取るのはビール。 ベッドに腰を掛けて、一気に煽る。
床に座りながら、ベッドに寄りかかり本を読む女が一人。 あまりの頭の臭さに、部屋に誘い、風呂に入れた。
無機質なこの部屋に、何故かこの女はよく似合う。 まるで、彼女のためにこの部屋があるように。
「何読んでんの?」 「・・・本です」 「知ってる。なんて本か聞いてんだけど?」 「えーっと、『合コンでいい男をゲットする50の方法』です」 「何、お前合コン行くの?」 「いえ。彩さんが下さったんですが、結構面白いんで」 「へえ。役に立ちそう?」 「・・・それはどうなんでしょう?合コンにあまり興味もありませんし」 「ふーん。行ってみればいいじゃん。合コン」 「でも、未来のだんな様に叱られます」 「合コンにいるかもしれないじゃん。旦那様」 「あ、そうか。じゃあ行ってみようかな?」 「そうそう。何事も経験よ、柴田サン」 「はい!待ってて下さいね、未来の旦那様〜」 柴田が、空想の世界の入り込んだ。 くくくと笑いながら、ビールを一口飲んだ。 柴田の髪に触れると、髪が濡れていた。
「何?お前、髪の毛乾かしてないの?」 「え?はい。私、自然乾燥派なんで」 「馬鹿だねー、風邪ひくよ?」 「大丈夫です。私、こう見えても強いんで」 「大丈夫じゃないの。風邪ひいてうつされんのこっちだから」 そういって、首にかけていたタオルで柴田の髪を拭いてやる。
「いたた、痛いです。真山さん」 「あ?悪い、いつものクセで」 いつも彼女の頭を掻き毟るクセがあるため、少々強く拭いていたらしい。 「こんなもん?」 「あ、いいですね〜。合格です」 「調子に乗らないの、叩くよ。ね?」 「は〜い」 「聞いてる?人の話」 「・・・なんだか、眠くなってきました・・・」 「寝るんじゃないよ」 「だって、頭触られると眠くなりません?」 「そんなもん?」 「そういうものなんです。・・・じゃあ、私が真山さんの髪の毛、拭いてあげますね」 柴田が立ち上がり、俺の方を向く。 風呂上り、赤い頬と濡れた髪の柴田は、なんだか少しそそる。 俺のTシャツをパジャマ代わりにしてて、そのだぼだぼ感がちょっと可愛い。 こんな事を思うのは、アルコールのせいだと自分に言い聞かせた。
柴田が、不慣れな手つきで俺の頭をタオルで拭いてくれる。 「どうですかー?眠くなりません?」 「別にー」 俺は、動くたびに少しゆれる柴田の二の腕をぷにぷにしながら答えた。 「何してるんですか?」 「ここって胸とおんなじ硬さなんだってさ。知ってた?」 「そうなんですか?」 「うん。そういわれてみればそんな気がする」 「自分の胸の硬さなんてわかりませんからねぇ」 「でも、ここの方が好きだね。俺は。形の問題なのかね?」 柴田の胸をちょんとつつく。 「何なさるんですか?エッチ」 「何を今更・・・」 「・・・真山さんって『おっぱい星人』なんですか?」 「どこで覚えたの?そんな懐かしい言葉。」 「いやらしい・・・」 「男がいやらしくなかったら、人類絶滅すんの」 「いやらしすぎるのも、問題だと思うんですが」 「うるさいよ。いいじゃん。ちょっとくらい」 少し拗ねて、またビールを口にする。 柴田と二人っきりだし、どうも子供っぽくなってしまう。 これもアルコールのせいなのか?
「お前さ、たまにはビール飲まないの?」 「いいえ。私アルコール駄目なんで。」 「・・・そういや、一緒に飲んだ事ないな。どのくらい弱いの?」 「えっと・・・一口飲んだだけで、記憶がなくなりました。」 「すっげー。いままでそんな弱いやつ、見たことないよ。」 「そんな珍獣みたいな言い方なさらないで下さい」 「飲んでみろよ」 「え?」 「一口だけ、な?」 「だめですってば。前回凄い失敗してるんで、お酒は飲まないって決めてるんです。」 「失敗?」 「えっと・・・麻衣子の事件の・・・合コンで・・・」 柴田が少し悲しそうな顔でつまりながら言った。 まだ、簡単には口に出していえないのだろう。 「ああ、ラブホに連れ込まれたヤツね」 「そんな言い方・・・」 「いいじゃん。俺に連れ込まれても別にいいでしょ?」 「そうですけど・・・」 「お前ね、無理矢理飲ますよ?」 「無理矢理って・・・?」 柴田の天然が炸裂した。 俺は少し笑って、耳元で囁く。
「お前それ、誘ってんの?」
柴田の顔が赤くなる。 「え?そんなつもりは・・・。え?え?」 柴田の困惑した表情を見つめながら、ビールを一口含んだ。 そして、柴田に口移しをした。 深く、激しい口付けで。
酔った柴田をホテルへ連れ込んだ男への嫉妬と、彼女への想いを込めて。
嫉妬するなんて、らしくない。 これも、アルコールのせいにしよう。
柴田がこくんとビールを飲み込んだ事を確認して、ゆっくりと離れる。 「・・・ど?うまい?」 柴田は答えない。 顔が、見たことのないほど赤くなり、目もトロンとしている。 「柴田〜?」 目の前で手をひらひらさせる。 反応がない。 ヤバイ。こいつイっちゃってる。 柴田の華奢な肩を掴んで、おもいっきり揺さぶった。 「柴田!?大丈夫か〜?お〜い?」
「ふふ、ふふふふふふ」 柴田が不気味に笑い始める。 「あはははははは」 「し〜ば〜た〜??」 「あ、まやまさんらー」 「なんだよ。いるじゃん、さっきから。」 「うふふふーまやまさぁーん」 「お前、やっぱりイっちゃった?」 「まやまさん、ちゅーしましょう。ちゅー。ねっ?」 「おい、しっかりしろよ。しば・・・」 その瞬間、柴田の細いからだのどこにこんな力があるのかと思うほどの強い力で首ねっこをつかまれ、無理矢理にキスをされた。 「・・・ぷは!お前ね、窒息しちゃうよ。窒息」 「いいですね〜。死因『キスによるちっそくし』。トレビアンだとおもいません?」 「思うかよ!」 「え〜?いいあんだとおもったのになぁ・・・」 えへへと柴田が気味悪く笑う。 俺は、ようやく柴田に酒を飲ませた事を後悔した。
柴田を抱き上げ、ベッドに横にする。 「お前さ、もう寝ちゃった方がいいわ。おやすみ」 「いやだぁ!まやまさんのえっち〜」 「何がエッチなんだよ?」 「え?これからいやらしいこと、するんでしょ?」 「お前ね、誰がするかよ!こんな状況で」 「え〜だってぇ〜、まやまさんいやらしいから〜」 「お前ね、今酔ってなかったら殺してるよ?」 「きすでちっそくですか?うふふふ」 呑気に笑う柴田に、本気で腹が立ってきた。 とにかく、早く寝かせよう。
「まやまさん」 「何だよ?」 ふと、柴田に目を落とす。 やっぱりまだ赤い顔で、それでもふわりと優しい笑みを浮べていた。 その笑顔がちょっと綺麗で。 しばし、見とれてしまう。
「まやまさん」 もう一度、柴田が俺の名を呼ぶ。 「ん?」 柴田の細い腕が、俺の首にまとわりついた。 「ちっそくさせてくれませんか?」 それだけ言うと、柴田が今度は熱っぽい顔で俺をじっと見ている。 ―ヤラレタ― それだけを心の中で呟いて、片眉をぴくりと上げた。 それが合図のように、柴田の唇に自分の唇を重ねる。
言葉には出して言えないから。 酒の力を借りないと、君に甘えられない駄目な男だから。 せめて、今だけは。 今日だけは、誰も邪魔をしないで、この口付けに溺れさせて欲しい。 俺の、ありったけの想いを込めて。
俺の首に巻きついていた柴田の腕が、ばたりと落ちた。 そっと離れると、柴田はもう眠っていた。 「キスの途中で寝るか?普通。」 あまりにも非常識な柴田に、あきれて怒る気もしなかった。
柴田の寝顔は、幸せそうで。 それを見た、俺の顔も自然に緩んでいた。
まぁいっかと呟いて、飲みかけのビールをまた飲み始める。 肴は、彼女の笑顔。 いい酒が飲めそうだ。 |