雨のち
いつものように捜査に出た二人。 しかし、突然の雨により、喫茶店で雨宿りをする事になった。
窓をじっと見つめながら柴田は言う。 「あ〜あ。雨、早く止みませんかね」 店員が真山の前にコーヒーを、柴田の前にパフェを置いた。 「俺はこのまま雨が降っていてくれた方がありがたいけどね」 「もう、真山さん。それじゃあ捜査に行けないじゃないですか」 「…だからいいじゃん」 真山は無表情のまま吸っていた煙草を灰皿に押し付けて、コーヒーを口に運ぶ。 しかし、入れたてのコーヒーはまだ熱かったらしい。 あわててカップから唇を離し、手で口を押さえた。
柴田はクスリと笑いながら上目遣いで真山の方を覗きこんだ。 真山は年上で、尊敬すべき先輩だが、時々子供のような仕草を見せる。 その姿は本当にかわいらしく、真山のそんな一面を探すことが最近の柴田の趣味になりつつあった。 それは、柴田が勉強や仕事以外で初めて見つけた趣味だった。
「…何だよ?人の顔見てニヤニヤしやがって」 いつも自分がからかっている柴田に笑われたことが心外だったのだろう。 真山は気分を害したようだ。いつもより眉間の皺が多い。 「いえ…。ただ、真山さんって熱いの苦手なんだな〜って思いまして」 「悪いかよ。お前にだって苦手なモンあるでしょ?」 「私、そんなにありませんよ〜?」 「嘘付け、高い所駄目なくせに」 「あ、そうでした。忘れてました〜」 柴田がにへらと気味悪く笑う。 「で、お前が好きなのは、調書と捜査、それに難事件でしょ?」 「すご〜い真山さん。どうしてわかるんですか〜?」 「そんなのね、弐係全員知ってるよ」 そう言いながら真山は二本目の煙草を取り出し、火をつけた。
「私、真山さんの嫌いなもの他にも知ってますよ。」 「何?」 「捜査と時間外労働。当たりました?」 バシッ 「いった〜い。何で叩くんですか?もう〜」 「別に。何となくムカついたから」 真山的に理由が無かった訳ではないが、説明するのが面倒なのでそう答えた。 「もう。理由無しに叩かないで下さいよ〜」 「はいはい」 真山はさも面倒臭そうに答えた。
「あ、真山さんって、暴力振るうのもお好きですよね?」 バシッ 「人をチンピラみたいに言わないの、ね?」 「…やっぱりサディスティックじゃないですか」 「うるせー、マゾ」 「私、マゾヒストなんかじゃないですよ〜!失礼ですね〜、真山さん」 「何?案外、まだ目覚めてないだけなんじゃないの?ね、今度試してみる?」 いつになくノリノリの真山。 最近、2人の間には肉体関係が存在する為、どうも冗談には聞こえない。 「…結構です」 「あ、そ。つまんねーの」 「やっぱり、そういうのお好きなんじゃないですか…」 バシッ 「お前ね、煩いよさっきから」 真山は柴田のパフェのバナナを一切れつまんだ。 「あー、私のですよ〜。返してください〜」 「もう食べちゃったもんね〜」 真山は口を全開にし、もう口の中に何もないことをアピールした。 「いいですよ、もう…真山さんバナナお好きですもんね」 「お、話わかるね。係長」 「あと、真山さんって、シュークリームもお好きですよね」 「まぁ、そうだね」 真山が指に付いたクリームを舐めながら答える。 「ふっふっふ。任せて下さい。私、部下の事は何でも知ってる『スーパー係長』めざしていますので」 「何?じゃあさ、近藤さんや京大の事も色々知ってんの?」 「…いいえ、それはまだ…。まずは、真山さんから知っていこうと思いまして」 真山はふっと笑った。 「それって私情入ってるんじゃないの?」 「……」 バシッ 「図星かよ!」
漸く真山が飲めるまでコーヒーが冷めたようだ。 真山は煙草を灰皿に置くと、コーヒーを啜り始めた。 「ま、仕事以外でも四六時中一緒にいるから、理解するのは早そうだけどな」 「はい。だんだんわかってきました。真山さんの事」 「口、口。お前、ものすげぇクリーム付きまくってるぞ」 「え〜っと、真山さんがお好きなものは煙草、新聞、有給、カツ。後は…」 柴田が口の周りにクリームを付けながら、真山の好物を指折り挙げていく。 真山はそんな姿に少し苦笑し、同時に愛しさがこみ上げてくる。
「お前、大事なもん忘れてるよ」 「え?なんですか?教えてください」 真山は指だけで、耳を貸すように合図をする。
「頭の臭い上司」
「あ、言っとくけどね、頭が臭いのは嫌だぞ。ちゃんと洗った頭の方が全然いいからな」 そう照れ隠しのように付け足す。
「で、お前の好きなのは、バナナの好きな男前の部下でしょ?」 「―いいえ」 柴田がゆっくりと首を振る。 そして静かに、いたずらっぽく続けた。
「バナナの好きな、サディスティックな部下です」
「…言うようになったね、お前も」 「おかげさまで」 二人は静かに笑いあった。
雨は、すっかり上がっていた―
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