| 雨音
やけに雨音が耳障りな気がして、私は目を開けた。
それまで深く寝入っていたせいか、時間の感覚が分からない。
ゆっくりとベッドから出て、窓際まで歩く。 少し前まで冷たかった床が、私の肌と変わりない温度で、なんだか不思議な感覚だ。 カーテンを少し摘んだら、まだ少しだけ残っている街の灯りが見えた。
6月の夜空は、当然の顔をした雨雲に支配されている。 多くの闇の中、微かな灯りを反射して、雨の雫はなんだかゆっくりと落ちてくるように感じた。
「・・・どうした?」 声に振り返ると、ベッドの中から男がこちらを見ていた。 「いえ・・・」 小さい声で答えると、少し急ぎ足でベッドに戻る。
「起こしちゃいましたか?」 潜り込みながら聞くと、男はゆっくりと僅かに首を左右に振った。 「・・・雨がね」 私と同じ原因で起きた、と男は言う。 「凄いですね」 私は何だか嬉しくて少し笑ってしまった。 「・・・うん」 珍しく男は素直に答えると、目を閉じてしまった。眠いのかもしれない。
私は子供をあやす母親のように、男の体を優しくぽんぽんと叩く。 暫くそのままでいた男が、口を開いた。 「・・・なあ、お前さ、雨って好き?」 「え?雨、ですか?」 急な問いかけに、私は少し戸惑った。 「あんまり・・・考えたこと、なかったです」 正直に答えると、男の瞼がうっすらと開いた。 「昼はアレだけどさ、夜の雨ってよくない?」 「夜限定ですか?」 「うん」 男は小さく笑って、また瞼を閉じる。
「夜の雨って、寝てると音が耳に入ってくるでしょ? ・・・音がするとさ、この世に一人じゃないって思えるじゃん」
そう言って、男は眠りに落ちた。
私は黙って男の顔を見つめたけれど、その顔が歪んで見える。 涙が勝手に溢れていた。 決して、寝ぼけている男の戯言が悲しかったからじゃない。 男への愛しさで泣けてきたのだ。
男を優しく抱きしめた。 自分より幾つも年上で、背が高くて、そして何よりも強いこの男が、たまらなく守りたい存在なのだ。
私だって、決して幸せだけで生きてきたわけじゃないけど。 でも、だから。 弱さを人に見せることの大変さを知っているから。
それを見せてくれた、この男が、とてもいとおしい。
涙が零れて、シーツを濡らした。 このぽとりと言う音が、男の耳に入ってくれたらと、密かに願った。 |