Addicted to you

 

 

柴田に鍵を開けさせ、部屋の中に入った。

「自分で鍵を開ければいいじゃないですか〜」

柴田は、俺にいいように遣われていると思っているのか、すこしスネ気味だ。

「俺、手に荷物持ってるでしょ?見えない?鍵くらい文句言わずに開けろよ」

そういって、頭をぱしんと叩いてそのまま、撫でる。

「鍵は開けれないけれど、私の頭は叩けるんですね」

「おう。お望みであれば、君の首も締めれるけど、やってみようか?」

「・・・冗談です」

柴田が咄嗟に俺とすこし距離を置いた。

すこしすねているのだろう。

 

部屋に入ると、柴田はいつもの指定席に。

金魚の前がこの部屋での柴田の居場所だった。

「こんにちは。お元気ですか〜?」

ふふふと笑いながら、金魚をじっと見つめている。

 

その柴田を横目で見ながら、俺はお湯を沸かす。

用意するカップは二つ。

以前柴田が図々しくも買ってきたペアのマグカップ。

俺のは黒で、柴田のは白。

買った当初は絶対に使わないと意地を張っていた俺であるが、今ではすっかり愛用している。

 

 

「あのですね、逢いたかったんです」

柴田が急に口を開いた。

「ふうん」

柴田も俺も、お互いの方は見ずにただ、ぼんやりと話している。

「逢いたかったんです。3日間も真山さんに会わなかったことなんて、久しぶりだったんで」

「そう?」

「はい。私が記憶をなくした時以来でしょうか」

「ああ。そんなこともあったねぇ」

「はい」

こぽこぽという金魚の水槽の機械の音と、お湯が沸く音だけが部屋にひびいた。

 

「でも、真山さんから連絡ないし、いつも押しかけていて迷惑じゃないかって考えていたんです」

「何それ?」

「だから、彩さんに相談したんです」

「また?」

「はい。そしたら、怒られました」

「何で?」

「遠慮なんかするなって。

『アンタは真山さんがいないとダメだって言うけど、アンタがいないとダメなのは真山さんの方だと思う』って」

ふっと、俺は笑った。

「真山さんはもう・・・その、オッサンだから自分から『逢いたい』なんて言えないだろうから、私のほうから行きなさいって」

やかんの火を止めると、いつの間にか柴田が俺の背後に来ていた。

そして、俺のトレーナーをくいっと引いて俺に訊いた。

 

「真山さんも、私に会いたかったですか?」

 

返事の代わりに、柴田の唇にキスを落とす。

 

 

さっき、部屋の前でお前は「おかえり」って俺に言っただろう?

そんなこと、随分言われてなかった気がする。

俺の帰る場所は、お前だと素直にそう思えた。

 

それと鍵をお前に開けてもらったのも、

意地悪じゃない。面倒くさかったわけでもない。

お前は自由にこの部屋を開けて、自由に俺のところに来たら良いと

わかってもらいたかったんだけど、お前は気づかなかったんだろうな。

 

 

金魚の前に、お前は自分専用のクッションを置いているだろう?

それに自分専用のこのマグカップも。

 

こんな風に、少しずつ。

俺の日常に、お前は入り込んでくるけど、

そんなことが気にならないほど、俺の中でお前の存在はでかいんだよ。

できれば、もっとそばにいて。

できれば、もっと近くにいて。

 

『アンタは真山さんがいないとダメだって言うけど、アンタがいないとダメなのは真山さんの方だと思う』

木戸にすらバレてしまっている俺の本音。

ちょっと前までの、クールな俺はどこに行ったんだろう?

 

クールが、聞いてあきれる。

こんな小汚い女がいないとダメなんて。

でもそれも悪くない。

 

この女に、どこまでも溺れてみようか?

 

 

キスがあまり上手くない柴田は、長いキスをすると酸欠状態になる。

今日も、唇をそっと離すとはぁはぁと苦しそうにしていた。

「あのさ、何で息しないの?お前そのうち、本当に死んじゃうよ?」

「上手く息出来ないんです。キスの時って」

「やっぱりお前ヘンだよ。ヘン」

「だって、なんか気持ちよくって・・・息するの、勿体無い気がして」

「ほんっと、ヘンだよね。お前」

そっと、柴田を抱きしめた。

 

「今度、彩さんにお礼を言っておかなくちゃ、ですね」

「べつにいいんじゃない?そんなの」

「え〜?でも彩さんに相談しなかったら今頃ひとりでうじうじしてましたし・・・」

「お前さ、木戸のほかに友達いないの?」

「え?・・・」

「あ、いないんだ。さみしいなー、変人」

「いますよー。野々村元係長とか、近藤さんとか、金次郎さんとか・・・」

「そういうのはね、同僚って言うんだよ。・・・まさかその中に俺も入ってんの?」

「はい、もちろんです」

「・・・あのさ」

「はい?」

 

「オトモダチは、こんなことしないと思うんですけど?」

 

「え?」

「あ、なんならさ。今日はお帰りになります?いや〜まずいよね。オトモダチが一緒に寝るのって」

「・・・そんなの、嫌、です・・・」

「俺だって、嫌だよ」

 

柴田が、ふふふと笑って俺にぎゅっと抱きついた。

抱きしめているのは、お前のほうなのかもしれないな。