7:昨日
いつもは、あまり感情を表に出さない柴田だけど、 真山に抱かれている時はそうもいかなくて。
いつもは白く透き通る肌を薔薇色に染めて。 無意識に発せられる甘い喘ぎ声は、何度聞いても真山を煽った。
「ま…やま、さん」 柴田の途切れがちな声が、真山を呼ぶ。 「何だよ」 真山はつとめて冷静な声で答えた。 「もっと…ぎゅっとしてください」 「ぎゅっと?」 「…はい…もっと真山さんを感じたい、です」 「じゃあ、しっかり掴まんな」 そういって、真山は柴田を深く、抱きなおす。
とてもせつなくて、とても満たされる。 真山に抱かれるたびに、柴田は何故かそう思う。 自分と真山が、別の生き物なことが、もどかしくて、くやしくて、それでいてすごく嬉しい。 自分が女で生まれたこと。 真山が男で生まれてきたこと。
そして、傷つきながらも生きていたこと。 生きて、二人出逢えたこと。
そう思うと、自分たちを引き合わせてくれたあの過去たちにも感謝をしたい。 過去の私は、今の私のため。 今の私は、あなたと一緒にいる未来の為。
「お前ってさ、すごいよね」 真山が、煙草を吸いながらポツリと呟いた。 「え?…何がですか?」 隣で寝ている柴田が、首を傾げた。 「ん〜、なんて言うのかね?やらしさ?みたいな」 真山が思い出したようにふっと笑った。 「え?私いやらしいんですか?」 「うん。自覚ないところが手に負えないんだよね。お前はさ」 真山が体勢を変えて柴田の方に向き合った。 「え?え?どの辺りがいやらしいんでしょうか?具体的に教えていただけますか?」 柴田が、真山の目をじっと見つめる。 「そうねー。普段は全然エロくないのに、急にエロスイッチ入っちゃうとすんごいところ」 真山の指が柴田の髪を一束掬って、それにキスを落とした。
「エロスイッチ、ですか?」 柴田が首をひねる。 「そう。昨日のお前急に今のお前見たら、びっくりすると思うよ?」 「そうですかね?」 「そ。なんならビデオとか撮ってしらふの時に見てみる?」 「…真山さん、それってなんか非常にやらしいんですけど?」 「何だよ!人がせっかく親切に・・・」
「昨日の私も今日の私も、全部私なんですから」 「…まぁ、そうだけどさぁ」 「エロくない、昨日の私も愛してくれますか?」 「さあねぇ」 真山が、軽く笑って煙草を灰皿に押し付けた。
「私は、昨日意地悪を言っていた真山さんも、今すごく優しい真山さんもどっちも好きですけど?」 「あっそ」 「…人が一世一代の告白してるのに…ちゃんと聞いて下さいよ!」 「はいはい」
昨日の君も、今日の君も 悲しい過去に捕らわれている君も 俺は、ちゃんと受け止るから。
明日の俺も、今日の俺も まだ見ぬ不安に怯えている俺を 君は、ちゃんと受け止めてくれるだろうか?
「・・・何ですか?真山さん」 「別に」 真山が、柴田を抱きしめる。
「真山さん…?」 「悪い、柴田」 「はい?」 「もっと、ぎゅっとして?」 「…はい」
不安に怯える俺を、昨日の悪夢を恐れる俺を、ぎゅっと抱きしめて。 もっと君を感じたら、きっとこの不安は消えるから。 もう少しだけ―
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