63:ピンク
「おはよーございまーす」 いつもどおりに柴田が定時を大幅に遅れて弐係にやってきた。 「おはようってアンタなぁ・・・もうお昼やで!?」 彩は怒っているというよりももはや呆れたというような口調で柴田に言った。 「すみません…ちょっと昨夜考え事してたら気を失ってまして」 「は!?」 柴田の危ない言い回しに、彩がギョッと目を見開いた。 そのやり取りを新聞を読みながら聞いていた真山が、新聞から顔を上げずに忠告する。 「あー、木戸、気にすんな。コイツ多分ただ寝てただけ。紛らわしい言い方すんなよな、馬鹿」 真山の言葉に、柴田は子供のように頬を膨らませた。 「『馬鹿』って・・・真山さん酷いですー…」 「あー、はいはい。悪かったよ、馬鹿」 「また馬鹿って言ったー!!あのですね、『馬鹿』って言ったほうが馬鹿なんですよー!!」 「…小学生かよ」 「真山さんが先に言ったんじゃないですか!」
喧嘩をしているようで、ただじゃれているだけの二人を彩が「あほらし」と切り捨てた。 柴田は、ぶつぶつと文句を言いながらも、自分の席に座った。 目の前では、真山が新聞を読んでいる。 ふと、新聞に目をやると信じられないような光景が目に飛び込んできた。 「きゃっ!!真山さんの変態〜!!」 思わず、そう叫んだ柴田を真山が睨んだ。 「…は?俺が何したっての?」 「そんな…私の口からはとても…」 べしっ 真っ赤になってうつむく柴田を、真山がはたく。 「言えよ!なんか誤解されんじゃん!!」 「誤解じゃないじゃないですかー」 「だから何だよ?俺がどう変態なわけ?」 「…しんぶん…」 「は!?」 「その新聞、いやらしいページがこっち向いてます…」 柴田が指した先には、真山が読みかけの新聞紙。 新聞を半分に折って読んでいた真山は、読んでいる面の反対側を柴田のほうに向けていた。 それは丁度エロネタのページだった。
「ああ、こんなの別に変態でもなんでもないじゃん」 「ええ!?な、なんて事を…」 「エロページごとき、どこのスポーツ新聞にでもあるでしょ?」 「…そうなんですか?」 「まー、一番力を入れてるのは東スポらしいけどねー。カラーだし」 「…はぁ」 「何?読みたい?柴田。じゃ、あげる」 びりびりと音を立てて真山はエロページだけを切って、柴田に渡した。 「も〜!!いりませんよー!!真山さん、これは立派なセクハラですよ!?」 「何がセクハラだよ。読みたいくせに」 「読みたくなんて…あれ?」 急に柴田の怒号が消え、真山が柴田のほうを見た。 先ほどまでの勢いはどこへやら、柴田は熱心にエロページを読んでいたのだ。
「…やっぱり読みたかったんじゃん。エロ」 からかう様に真山がそう呟くと、柴田がその声に顔を上げずに答えた。 「違います。ここに占いが…」 確かに、柴田の視線はエロページの中にある占いの欄に釘付けだった。 「…あのさ、それも普通の占いじゃなくって…聞いてる?柴田」 エロ占いに熱中する柴田には、もう真山の声は届かなかった。
「あ、真山さん。私今日ちょっと寄る所がありますので…」 「ふーん。じゃあね」 「あ、あのですね。でも夜遅くなりますけど、真山さんのおうちに行っていいですか?」 「…別にいいけど。何なの?その用事って」 「いえ、ちょっと…えっと、私が伺うまで起きててなくってもいいですから」 「当たり前でしょ?眠くなったら寝るよ?当然じゃん」 「・・・はい。では、後ほど…」
翌朝。 まぶしい朝日の中、真山はさわやかに目を覚ました。 時間は7時。いつもどおりだ。俺。 ふと隣を見ると、柴田が寄り添うように寝ていた。 …いつの間に来たんだろう?そういえば夜中、なんかがたがたとうるさかったような気もする。 まぁいいや。とあくびを一つして、真山は朝の準備に取り掛かった。 顔を洗い、歯を磨き、簡素な朝ごはんを用意する。 さぁ、着替えようと真山がクローゼット代わりにしている洋服掛けを見た。 …あれ? いつも並んでいる黒っぽい背広の群れが見当たらない。
代わりにあるのは、ど派手なピンク色のスーツ一式。
・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・・ 「しぃ〜ばたぁ〜!!!」
すやすやと眠る柴田の手には、昨夜のエロ占いの切抜き。 「5月生まれのアナタ。ラッキーカラーの服を着れば、精力up!! 単調なセックスに飽きている彼女も、きっと見直すはず ラッキーカラー:ピンク ラッキーアイテム:ダブルのスーツ」
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