55:電話
腕が痛い。 血がどくどくと流れ出る。
何度も気が遠くなる。 けれど、ここで死ぬわけにはいかない。 あいつを倒すまで・・・あいつを殺すまで、 俺は絶対にあきらめないと誓ったのだから。
そうしなければ、沙織が笑えない。 夢で見る沙織は、あの頃のまま無邪気で。 もう懐かしくなってしまったあの笑顔で、生きている。 けれども、最後には必ず泣き出す。 ぽろぽろと大粒の涙を流し、いたい、つらい、こわいと言って泣き叫ぶ。
俺はもうそんな沙織は見たくない。 だから、やらなくてはならない。あいつを。
それが俺の信念だった。 それは今でも変わらない。
けれど、今。 思い出すのはもう一人の女。
出逢ってまだ間もないはずなのに、どうしてだろう。 思い出すのはアイツの顔。
なぁ、柴田。 どうしてだろうな? どうして俺はお前に鍵なんて預けたんだろう? 沙織の形見の金魚を守って欲しかった。それは本当だ。 けれども、お前である必要なんてなかったのに。
俺はお前を巻き込んだ。 大切な親友を俺たちの因縁に巻き込んで、殺してしまった。 ごめん、柴田。
許してくれとは言わない。 憎んでくれていい。 その代わり、俺の事を覚えておいて。 お前を叩いて、抓って、怒鳴って そんな酷い男がいた事を覚えておいて。
金魚もいつか寿命が来る。死んでしまうのは仕方ない。 だから、せめて寂しくないように、いつもそばにいてやって。 沙織はああ見えて俺に似ている。 俺と一緒で寂しがり屋だから。
その鍵を、形見だなんて思わなくていい。 けれど、ずっと持っていて。 その鞄の中で、役に立たないものと一緒に埋もれててもいい。 どこへでも、一緒に連れて行ってくれ。 その鍵は、俺の半身。お前の傍にいたいはずだから。
永い、永いこの戦いにそろそろ決着を付けなきゃいけない。 朝倉と対峙して、決着を。
柴田、もう一つ頼まれてくれないか? 朝倉にその事を告げて欲しいんだ。
きっと、朝倉は俺の事をどっかで見てる。 俺がどうにかして伝えようとすれば、すぐに朝倉に届くだろう。
けれど、柴田。 お前に頼みたいんだ。
公衆電話を見つけて、中に入る。 ポケットにいつも入れている小銭を公衆電話に入れる。
指が、自然に動く。 かけたことなんてないのに、何故か覚えてしまっているアイツの携帯電話の番号。
ごめん、柴田。また巻き込んで。 この戦いの後俺は生きていないかもしれない。 だからお前の声を最後に聞きたい。 もう一度、言っておきたい。 「生きろ」 お前だけは、なんとしても。
もし、俺が生きてお前に逢えたら。 その時は、お前の言うこと一つくらいはきいてやるからさ。
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