53:ジレンマ
昔、昔。 あれは確か小学生の時。 国語の時間だった。 私は授業などそっちのけで気になる言葉を辞書で調べていた。 保健体育で学んだ「性教育」と小説などで読む「愛」がどうしても繋がらなかったから。 その辺りをじっくり調べたかった。
その時引いた言葉は「セックス」 辞書には、こう記されていた。 セックス【sex】(名詞) (1)生物上の男女・雌雄の別。性。→ジェンダー (2)性的欲望。また、性交すること。 (3)性器。
性別。 それと性行為が同じ言葉で表せるなんて、英語をとても異質なものに感じた。
そのことは、すっかり忘れていた。 特別思い出すような事ではなかったし、特に深い意味も感じなかった。
けれど最近になって、セックスを自分がするようになって。
セックスをしている間、私は貴方と一つになれるような気がする。 境目も隔てる距離もないくらいに、一つになって。 けれど、そうなれるのは私が女で、貴方が男だから。 性別が違うからこそ、ひとつになれる。 セックスが出来る。
本当は、あなたと同じになりたかった。 性別も同じで、考え方も一緒で、何も変わらない。 まるで鏡のように貴方の考えてることがわかったら。 それはきっととても幸せで、憧れで。 けれども、実際はそうじゃない。 私は女で、貴方は男。 考え方が違う。感じ方も違う。 貴方の考えていることなんで私には全然わからない。 これは、ジレンマだ。
私が女でなければ、貴方をもっと理解できたのに。 私が女であるからこそ、貴方と一緒になれる。
・・・わからない。 どっちがいいのか、よくわからない。
「ねぇ、真山さん」 「んー?」 「私が男だったら、どうしますか?」 「何?お前モロッコで手術したの!?」 「違いますよー。あー、煙草落さないで下さい。シーツ焦げちゃったじゃないですかー」 「・・・ビックリさせんなよ。よく出来てんなーとか思っちゃったじゃん」 「あ、そっか。男でも手術すれば真山さんとセックス出来るんだ」 「何が言いたいの?お前?」 「えーっとですね・・・なんて言えばいいんだろ?・・・私真山さんのこともっとわかりたいんですよ」 「それでどこをどうしたらモロッコで手術になんの?」 「男の人だったら、真山さんと同じ考え方出来たかな?と思いまして」 「・・・なるほどね」 「どっちがいいですか?男の私と女の私」 「そりゃ、女でしょう」 「・・・そうですか?」 「うん。そりゃ、女じゃなきゃこんなこと出来てないし?」 「・・・セックスできるから、なんですか?」 「まー、それだけじゃないけどね」 「例えば・・・?」 「わかんないから、いいんじゃない?」 「・・・え?」 「お前さ、例えばわかんないことがあったらどうする?」 「えっと・・・知ろうと頑張ります。努力して」 「・・・ほら。な?」 「あ・・・。なるほど」 「もし、相手のことが手に取るようにわかったらさ、知りたくもなくなるんじゃないの?」 「・・・・・」 「お前さ、やっぱり難しく考えすぎだよ。ごちゃごちゃ考えてんじゃないよ」
そう言って、私の頭をくしゃりと撫でる真山さんの手は大きくて。 その手の大きさにときめけるだけでも、女でよかったなぁと思った。
知りたいけど、わからない。 分かり合えないから、わかりたい。
やっぱり私は女で、貴方は男で。 それはきっと、神様が決めたことだから。 難しく考えずに、そのまま貴方に身を任せよう。 もがきながら、悪あがきしながら、貴方をずっと見ていよう。 貴方と私は違うのだから。
ずっと、ずっと、貴方のそばに。 許してくれますか?真山さん。
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