53:絶交 

 

 

 

 

「真山さん、意地悪です!!」

「なんで?当たり前のこと言っただけじゃん」

「もういいです!絶交です!!」

「・・・小学生かよ」

「ほら、やっぱり意地悪〜!!いいんですか?本当に絶交切っちゃいますよ?」

「馬っ鹿じゃない?好きにすれば〜?」

「切っちゃいますよ?止めるなら今ですよ〜?」

 

 

弐係で、まるで小学生のようにじゃれ合う真山と柴田。

珍しく用事で弐係に来た斑目は、その様子を少し離れた場所で呆然と眺めていた。

「・・・彩」

「うわ!びっくりした〜。あんた気配消して人の脇に立つんやめてんか?」

「彩、何だあれは」

「ん?いつものことやん。真山さんちの夫婦喧嘩。邪魔したら馬に蹴られて死んでまうで?」

「それは『人の恋路』じゃないのか?」

「一緒やん。あのヒトらはなぁ、ああやって愛をはぐくんでるんやろ?」

「・・・なるほど」

 

斑目は軽く頷いて、真山と柴田を改めてじっと見つめた。

「・・・どうしたん?」

彩が見上げるように斑目の顔を覗く。

「うん・・・真山さんはあんな顔していたかなと思った」

要点だけを的確に話すような斑目の言葉を聞いて、彩は斑目の目線を追った。

 

子供のように笑う、真山。

 

「がっかりした?」

「なにがだ?」

「アンタが憧れた真山さんじゃなくなって、がっかりした?」

彩の口元はうっすらと笑っているように見えた。

「・・・・・・・」

斑目は答えなかった。

答えの代わりのようにもう一度、真山の顔をじっと見つめた。

 

 

全てを教えてくれた男がいた。

仕事も、生き方も、情熱も。

その男に憧れて、その男に倣った。

俺は、その男のようになりたかった。

仕事に熱心で、真っ直ぐで、自分の正義を貫いて。

あんなにかっこいい男など、他にいるとは思えなかった。

 

その男が、変わった。

一度目は、誰もが目を逸らさずにはいられなくなるほど痛々しく。

二度目は、何よりも強く。

そして今は、何よりも幸せそうに。

 

以前の男からは考えられない、穏やかさと温かさ。

 

男は、いつも教えてくれる。

いつも俺の一歩前を歩いて、手本を示してくれる。

仕事も、生き方も、情熱も、そして大切なものがあることの素晴らしさを。

変わり続けるその男は、いつも誰よりも何よりもかっこよくて。

そんな風になれはしないのだけど、懲りずにいつも憧れてしまう。

 

大事な人の隣で笑う真山の顔は何よりも強く見えたし、何よりもやさしく見えた。

そして、やはり憧れるくらい格好良かった。

 

「・・・なぁ」

一緒に沈黙を守っていた彩が、斑目の顔をもう一度見た。

「慰めたるで?」

「・・・慰められる覚えはないが」

斑目が険しい顔で彩の方を向く。

「失恋、みたいなもんやろ?」

「彩?」

彩の言い方は何か含みを帯びていて、やけに気になってしまう。

「アンタのだーい好きな真山さんがおらないようになって、寂しいんやろ?」

斑目は軽く首を振る。

「・・・あの人は、俺の憧れだ。今でもな」

それを聞くと彩は意外そうな顔をしたが、僅かに優しい顔になった。

「ふうん・・・」

その瞬間、斑目は真山に少しだけ近づけたような気がした。

 

「残念やなぁ、せっかくアンタと飲もうと思ったんやけど」

「・・・そんなことだろうと思った」

「なんかアタシが企んでるように聞こえるんやけど?」

「実際そうだろう?ザルと飲むのは体力的にも金銭的にも辛いんだぞ?」

「別にアタシ奢ってくれなんて言ってへんやーん。アンタが絶対払うってきかへんから」

「・・・女に金出させるほど甲斐性なしじゃないからな」

「相変わらずやなぁ、アンタ」

「何が可笑しい?」

「そーゆー融通のきけへん所、アタシ好きやで?」

「・・・・・・・・」

「いちいち赤くならなんでくれへん?」

「すまん」

「中学生並みやな」

「・・・彩」

「何?」

「今日、飲みに行かないか?」

「ボーナス出たしな」

「・・・そういうことだ」

 

 

あんなに格好いい男にはなれないかもしれないけれど。

俺にだって、大切なものくらいあるから。

せめて、大事に出来たら良いと思う。