52:ダンス 

 

 

 

 

あれは、私が社交ダンスのお稽古から帰る途中でしたので・・・夜の9時前のことでしょうか。

近道にとよく利用する公園で、偶然柴田さんと真山さんを見かけました。

 

電灯の下、不機嫌そうにベンチに座っている真山さんと、身振りを駆使して事件を考えている柴田さん。

ごくごくいつもの二人に見えたので、僕が声を掛けようとしたその時、二人の会話が聞こえました。

 

「ね〜、真山さん。ワルツってどうやるんですか?」

「・・・俺が知ってると思う?」

「ですよねー。聞くだけ無駄でした」

「・・・むかつく。帰っていい?」

「わー!!すみませ〜ん!もうちょっと待ってください。すぐですから」

「さっきもすぐって言わなかったけ?お前」

「そうですっけ?」

「ってかさ、何でワルツ?」

「今の事件の被害者がね、ソシアルダンス習っていたそうなんですよ。得意な踊りはワルツ。そう書いてあるんです」

「あっそ。事件に関係あんの?」

「被害者の足にアザがありましてね。それが事件に関するものなのか、ダンスに関係するものなのかちょっと気になりまして」

「ふーん。明日近藤さんに聞けば?詳しいんじゃないの?そういうの」

「あー、そうですね。そうします」

 

「柴田」

「はい?」

「寒い」

「・・・もうちょっとですから、少しだけ我慢してください」

よいしょと真山さんが立ち上がり、柴田さんのほうに歩いていきました。

 

「なんだっけ、ワルツ?」

「はい。ワルツです」

「柴田、バック降ろせ」

「何ですか?」

真山さんは、柴田さんの肩からバックを降ろして足元に置くと、柴田さんの手を取りました。

「え?真山さん」

「はい、運動してあったまろうかー」

 

「え?え?」

混乱している柴田さんに構わず、真山さんは柴田さんの手をとって楽しそうにステップを踏み始めました。

「はいー、いちにーさんし。にーにーさんしー」

「きゃー!!真山さん、ちょっとまって下さい〜」

「あー、何?お前、運痴?どんくせー」

「真山さんこそ足踏んでますー!」

「ホラ、回れー!」

 

それは、ステップなんて僕からしたらめちゃくちゃで。

姿勢とか、手の位置とかきっと何一つ守ってないんだろうけれど。

黒いコートと茶色いコートのダンス。

寒い寒い空の下。

人気のない公園、電灯の下。

音楽も、観客もないけれど。

 

それは、どんな上手い人のダンスよりも楽しそうで、観ている僕も楽しくさせました。

 

 

話しかけるタイミングを失った僕は、黙ってその場を離れることにしました。

あの雰囲気は、とても壊していいものではないといくら僕でもわかりましたから。

 

僕も、あんなふうに踊れたら。

 

軽いステップを踏みながら、僕は家路にと着きました。

愛する、家族のいる家に。

 

 

「あー、結構疲れるものですねぇ、ダンスって」

「汗かいちゃった。あっちー」

「ちゃんと拭かないと、逆に冷えますよ?」

「本当はさ、ここでヤっちゃおうかと思ったんだけどさ、嫌がりそうじゃん。お前」

「・・・当たり前ですよ。こんなところじゃいやですよ」

「お?こんなところじゃなかったらいいの?」

「・・・まぁ・・・嫌じゃないですけど・・・」

「はい決まりー。さっさと帰るよー?」

「え?もうちょっとで犯人、わかりそうなんですけど・・・」

「明日、明日。明日いっくらでも付き合ってやるからさ」

「ホントですか?」

「うん、だから今日は帰ろ?柴田サン」

「・・・わかりました。絶対ですよ?明日」

「わかってるって。・・・どこ行くの?お家、こっちだよー?」