5:折り紙
近藤が、盲腸で入院した。 それを聞いて心を痛めた心優しい弐係長の柴田は一つ提案をした。
「みんなで千羽鶴を折りましょう!!」
この心温まる提案のお陰で、弐係の残された柴田・真山・彩・金太郎の四人で鶴を千羽折るハメになってしまった。
「みなさーん、ノルマは一人250羽ずつですよー。頑張りましょうね」 提案者の柴田が、楽しそうにみんなに折り紙を配っていた。 「なぁ、柴田。こんなんを持っていくより果物かなんかあげた方が、近藤さん、喜ぶと思うんやけど…」 彩が、綺麗な爪で折り紙を一枚つまみながら文句を言う。 「もう、彩さん何をおっしゃってるんですかー? 千羽鶴というものはですね、早く病気がなおるようっていうにみんなの気持ちなんですよー。 こっちの方が近藤さん、喜んで下さるに決まってるじゃないですかー」 柴田が、頬を膨らませながら答えた。 「まぁ、金出さんでええっちゅうならこっちでもええけどなー。 どうせ昔、バイクで事故って骨折ったヤツなんかのためにいっぱい折らされたから慣れたもんやし」 彩が、ブツブツ言いながらも鶴を折る作業にとりかかった。
真山は、面倒くさそうに煙草をふかしている。 「真山さんも、ちゃんと250羽折って下さいねー。お手伝いはしませんからね?」 「盲腸ごときで千羽鶴かよ?近藤さん、自分のこと胃がんかなんかとカン違いするんじゃねーの? 大袈裟なんだよ。ね、大袈裟」 やれやれと、やっと折り紙に手を伸ばした。
この事態に、一人有頂天になっている男がいた。 それは、遠山金太郎、その人であった。
実は、何を隠そうこの天才。 過去に折り紙クラブに所属したっちゅー、輝かしい過去がある(運動は出来ひんから) ふふふふ。今日こそ、みんなに俺様の実力をたっぷり見せ付けるチャンスやんか。 折り紙のエキスパートぶりを発揮して、一気にスターダムにのし上がってやるんや!
金太郎がすごい速さで折鶴を折り始めた。 その動きは、とても早くて、しかも正確。 すごい、こんな折り紙は見たこともない… …しかし、誰一人として彼に注目してはいなかった。
「柴田、柴田」 真山が呼ぶ声がして、柴田が顔を上げた。 こつん 柴田の額に折り紙で作った紙飛行機がぶつかった。 「も〜、何するんですか〜?」 柴田が額をさすりながら抗議する。 「うひひひ。お前さ、普通それくらいよけれるもんよ? 近藤さんへのお見舞いの品。これでいいじゃん」 真山が、折り紙でつくったバナナを柴田に手渡した。 「うわー、かわいいですねぇ。ありがとうございますー」 柴田が嬉しそうにそれを受取る。 「あとねー、やっこさん。あげる」 「懐かしいですねー。やっこさん。」 ふと柴田が真山の机の上を見ると、百合や帆掛け舟、小物入れなど様々な折り紙で出来た真山の作品が並べられていた。 「わー、真山さん。折り紙お上手なんですねぇ」 柴田がその一つ一つを手にとって、嬉しそうに眺めた。 「なーんか、真山さんが折り紙折れるなんて、似合わヘんなぁ」 彩がキヒヒと笑った。 「真山さん、風船出来ないんですか?風船!私、アレが好きだったんですよ〜」 「俺が出来ないわけないでしょ?」 そういって、真山が咥えていた煙草を灰皿において、手際よく折り紙を折り始めた。 その様子を、柴田が目を輝かせて見ている。
「沙織も、そうやって俺が折り紙折るのじっと見てたっけなぁ」 真山が優しい表情で呟いた。 「え?沙織さん?」 「そ。俺んちいわゆる共働きてヤツでさ。親が帰ってくるまで、俺がアイツの相手してたの。 ・・・それでこんなに折り紙折れるようになったんだよ」 「ああ、そうだったんですか…」 柴田の表情も、どこか優しい。
「ほらよ、風船」 できあがった風船を柴田に手渡す。 「ありがとうございますー。わー、嬉しいなー」 ふーふー。柴田が風船に息を吹き込もうとしたが、なかなか風船は膨らまない。 こんなところまで沙織とそっくりだと真山は少し笑った。 「ほら、かしてみ?」 柴田から風船を受取って、風船に息を吹き込んだ。
ふっくら膨らんだ紙風船は、ぽんぽんといい音をさせながら宙に舞う。 柴田が風船の動きを一生懸命目で追った。 真山はその様子を横目で見ていた。
確かに、こいつを妹と重ねたこともあった。 けれども、今は違う。 同僚とも、友人とも、家族とも違う。 今までの、“恋人”と呼んでいた女たちとも確かに違う。 この、湧き上がるいつまでも枯れない想いをなんと呼べばいいんだろう。 きっと、名前なんてなくてもいいんだろう。 ただ、この想いを君に伝えられればそれでいいんだと思う。
こいつは、妹とは違う。 それ以上でも、それ以下でもない大切な人。
「あれ?何でお前、折鶴一羽も折ってないの?」 「実はですね…私、鶴折れないの忘れてました」 「・・・・・・」 「なんや知らんけど、金太郎のアホが一心不乱に折ってるで?」 「じゃあさ、全部あいつに折らせようぜ?」 「だめですよ〜、真山さん」 「ん?何?じゃあ、お前自分の分、きっちり250羽折れるの?」 「・・・・・」 「ちょっとずつ折り紙の枚数増やせば、わからんって。あほやから」 「そうだな。そうしようぜ」 「・・・・・・」
その後、あっという間に出来た千羽鶴は、彩と真山の思惑通り全て金太郎によるものであったという。 |