47:ぐれてやる

 

 

 

 

「・・・真山さん」

「んー?」

真山は、もう眠たかった。

月曜日は、休み明けだからと言うべきか、休み明けなのにと言うべきか、だるい。

その体を引きずって、柴田の捜査に付き合ってやったのだけど、もう限界が来ていた。

嫌がる柴田を無理矢理連れて一緒に風呂には入ったものの、眠気が襲って何もせずに同じベッドに入った。

本当に眠いのだ。

だから今、例え柴田が珍しく誘ってきても、それに答えてやる元気も気力も残ってなどはいなかった。

「真山さんもうおねむなんですか〜?」

それを漸く察した柴田が、背中の方から真山の顔を覗き込んだ。

「・・・うん」

もう言い返す気力もなくて、素直に頷くと、ごろりと寝返りを打つ。

 

薄く開けた目に、柴田の顔が見える。

 

「せっかく色々お話しようと思ったんですけどね〜?」

残念そうに柴田が唇を尖らした。

もう少し元気があったら、思わず咥えたくなる唇の形だ。

真山は軽く笑った。

「・・・いいから、お前も寝ろ」

掠れた声で柴田に言うと、柴田は首を振った。

「私は、もうちょっと起きてます。まだ眠くなりそうにないんで」

そう言って、静かにベッドから起き上がろうとした。

しかし、真山が柴田の細い腕を掴んでそれを阻止する。

「・・・真山さん?」

柴田が驚いて目を見開いた。

「たまには、俺の言うことを聞け」

「え?」

こんな真山は初めてで、柴田はどうしたらいいかわからず固まってしまう。

 

真山はいつも、柴田にあまり求めない。

行動を制限することはないし、何かを強要したりすることは滅多にしない。

だから、こんな風に強い力で腕を握られたのは初めてだった。

 

月光に晒されて、ごつごつした真山の手の甲の筋が陰影を作る。

柴田はその様子をじっと見つめた。

 

するとその手は、するりと柴田の首に回され、

抱き寄せられるように、ゆっくりと柴田の体は真山の体の上に重なるように横たわった。

「・・・真山さん?」

頭に移動して、ゆっくりと撫でられるその手が、あまりにも優しいので柴田は困ってしまう。

真山は柴田の問いかけにも戸惑いにも一切答えずに、その代わりに息をひとつ、ついた。

まるで、心配事全てを手放したような、安心しきったため息を。

 

そして、真山は柴田の首筋を音を立てて軽く吸う。

真山の唇が触れた部分から、全身に熱が広がる。

ちょっと苦しくなって、柴田は小さく唸った。

上体を起こし、潤んだ目で真山を見つめる。

「・・・真山さん・・・」

柴田の言葉には、もう戸惑いは感じられなかった。

 

すると、真山はもう一度薄く目を開け、無邪気に笑った。

「おやすみ・・・」

そして、すぐ目を瞑り、柴田を抱いたまま寝息を立て始めた。

 

「・・・え?」

その気にさせられて、一人取り残された柴田は呆然とした。

眠る前の真山はいつも優しいと思っていたが、やっぱり根本は真山なのだ。

 

「・・・ぐれてやる・・・」

柴田は、誰にともなく呟いた。

それは柴田にとって、人生で初めて道を逸れようと思った瞬間であったのだ。

 

 

しかし、

髪にかかる寝息と、背中に置かれたてのひらの温かさに

道は外れてしまっても、この人の傍にいよう―

柴田は密かに思って瞳を閉じた。