46:銀食器 

 

 

 

 

「彩さん。今夜、なにか予定ありますか?」

突然、柴田が言い出したのに、彩は少し驚いてしまった。

「・・・は?」

「もしお暇でしたら、ちょっと付き合っていただけませんか?」

「アタシ?」

呆けた顔で彩は綺麗に彩られた爪で自分を指した。

柴田は勿論ですと言いたげに頷いた。

彩は真山をちらりと見たが、いつものように特に自分達の会話を気にしている様子はない。

「何?あ、わかった。前言ってた東大出身のチョーかっこいい男との合コン?」

柴田は首を横に振った。やっぱりと彩は思った。

「親戚に赤ちゃんが生まれたんですよ。それでお祝いを買いに行きたいんですけど、付き合っていただけますか?」

「ああ」

彩は納得した。それならば、真山よりも自分のほうが適切な同行者として選ばれたのも納得が行く。

「別にええけど・・・今日は合コンの予定もあらへんしな」

そう言った後で、彩は意味ありげに真山の方を見た。

「真山さんと行った方がええんちゃう?予行練習になるかもよ〜?」

真山は露骨に眉間に皺を寄せた。

「何言ってんの?馬っ鹿じゃない?」

その反応が彩の予想通りで楽しくて、彩はイヒヒと下品に笑った。

 

「・・・で?」

彩の問いかけに柴田が顔を上げる。

「何買うか考えてんの?」

「はい!」

柴田は張り切って答えた。

「何?」

彩は自分の爪を見ながら尋ねた。

今日の爪は我ながら傑作だ。青のグラデーションといい、雨に見立てた透明なドットといい、鬱蒼な気分を軽くしてくれる。

「銀のスプーンです」

「はぁ!?」

慌てて彩が柴田の方を振り返ると、弾みで小指の爪が少し欠けてしまった。

彩はそれを見て小さく舌打ちをして、それでも柴田の顔を見直した。

「スプーンってどういうこと?」

怪訝な顔で自分を見つめてくる彩を、柴田は不思議そうに見つめた。

「彩さん、ご存知ないんですか?昔から子供が生まれた時には、銀のスプーンを送るのが慣わしなんですよ?」

「なんやそれ、初耳や」

彩は難しい顔をしている。

そこに、助け舟のように近藤が言った。

「私も聞いた事はありますよ。ヨーロッパでは昔からの風習のようですよ」

「ヨーロッパぁ〜!?」

彩が素っ頓狂な声をあげた。

「アンタ何モン!?ここ日本やで?何気取っとんの?」

「え〜?ダメですか?ロマンチックで素敵だと思うんですけど・・・」

「乳飲み子抱えてる人間が、いくら金ぴかかもしれんけど、さじ一つ貰って喜ぶと思ってんの!?」

「記念じゃないですか〜」

「ええか?記念よりもな、すぐに役立つもんあげた方が喜ばれるねんで」

「そういうものなんですか?」

「そうや」

「それは、お前のお友達の若〜いお父さん、お母さん達の話でしょ?」

真山が茶々を入れる。

「じゃあ、真山さんは小さいスプーン一つとベビー服一枚だったら、どっちが貰ろて嬉しい?」

「・・・そりゃ、服の方でしょ?」

「な?」

「そうかなぁ〜」

「・・・じゃあ、あんたんとこに子供が生まれたらスプーン一本贈っとくわ。な、真山さん」

「俺は関係ないって」

「わあ〜、待ってますね!」

柴田が嬉しそうに笑った。

その素直な反応に彩は呆れてからかいの言葉が出てこなかった。

 

「あー、でもスプーンがダメだったら、何を贈れば良いんでしょうか?」

柴田が困ったような声を出した。

「そうやなー・・・そや、生まれた子供って男?女?」

「えーっと、男の子だそうですよー」

「男の子か・・・なんかつまらんなー。女の子なら色々と華やかなの選べるのになー」

「そうですか?私は男の子が欲しいんですけどねー」

「へー、意外やな・・・アンタは女の子が似合うてる気ぃすんねんけどなー」

「女の子もいいんですけどね。旦那様に似た男の子育てるのもロマンだと思いません?」

「・・・やて?真山さん」

「無関係ー」

「でも、あんたんとこはダンナに似たらえらい無愛想な子になるでー?それでもええの?」

「え?彩さん私の旦那様ご存知なんですか?」

「ご存知っちゅうか・・・なあ?」

「かわいく親子三人ペアルックでお休みの日にはお弁当持って公園に行くのが夢なんです」

「ぷぷっ・・・ええ夢やな〜。頑張りー」

「・・・なんで俺見て笑うんだよ」

「いや、色々頑張ってな〜。真山さん」

「だから何を」

「なあ、近藤さん?」

「ええ〜!?急に振られても・・・」

「畜生、二週間以内にすっげえ美人見つけて子供孕ませてやる」

「真山さん、もう少し穏便な言い方で・・・」

「そうやでー。思ってもないことあんまり軽々しく言うもんとちゃうでー」

「ああもう何だよ、この会話の流れ。最悪だよ」

「何で?楽しいやん」

「そりゃ、お前らはね・・・」

「いつも人をからかってばっかりいるからこういう目にあうねんて。反省し」

「・・・おい、柴田」

「はい?」

「お前もさ、黙ってないで話の流れ変えろよ」

「え?そんなこと言われましても〜」

「何でもいいからこの空気変えて?ね?」

「え〜っと・・・あ!そうだ、真山さん」

「ん?」

 

「赤ちゃん出来るとしたら、男の子と女の子のどっちがいいですか〜?」

 

 

ヒュ〜ヒュ〜

二人をからかう声が弐係に響いた。

 

「・・・柴田、てめぇ・・・」

「あれ?ダメでした?」