41:留守番
休日で、特に予定のない二人はいつものように真山の部屋にいた。 「折角のお休みなんですから、どこか行きましょうよ〜」 柴田は、そう言って何度かどこかに行こうと提案したのだが、 「折角の休みだから、家でゆっくりすんの」 真山の主張に勝つことは出来なかった。
柴田は少し拗ねつつも、真山の部屋を出ようとは思わずに、 いつものように真山の隣で静かに過ごす事にした。
本当は気付いているのだ。 下手にどこか行くよりは、こうして静かに過ごすほうが柴田も好きな事に。
真山が煙草の箱に手を伸ばす。 しかし、掴んだその箱の中身は空らしく、不機嫌そうな舌打ちが柴田にまで聞こえてきた。 「ちょっと買って来る」 真山は静かにそう告げると、ズボンのポケットの小銭をちゃらちゃらと言わせて立ち上がった。 「はい」 座っていた柴田が真山を見上げると、真山の手が柴田の頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。 「いい子でお留守番してろよ?」 「もー!子ども扱いしないで下さいよー!!」 「知らない人が来ても、ドア開けんなよ?」 「それぐらいちゃんとわかってますよ」 「・・・勧誘を断りきれずに新聞を三ヶ月取らされた覚えがあるんですけど?」 「それは・・・だって、洗剤にゴミ袋もつけてくださるって言うので・・・」 「お前さ、ここ人ん家でしょ?断れよ、ちゃんと。な?」 「だって、真山さんのお家・・・インターフォンないし・・・出るしかないんですよね〜」 「じゃあさ、管理人に言ってよ。インターフォンつけろって」 「あー、でも私ここの部屋の住人じゃないですし・・・」 「そう言って断って?勧誘の類も。ね?」 「あ、なるほどー。真山さん頭いいですねー」 「・・・お前が悪いんだよ」 真山は呆れたと言いたげに大きなため息を一つして、サンダルを履き、煙草を買いに行ってしまった。
一人残された柴田も、大きくため息をつく。 それまでも特に何をしていたわけでもないが、急に手持ち無沙汰になったような気がして、きょろきょろと辺りを見回した。
「・・・・あ」 何かを思い出したように、柴田はベッドに近づいた。 ごそごそとベッドの下を探る。 手を突っ込み、体勢を変えて覗き込み、それから鞄の中から懐中電灯を取り出して覗き込み。 「あれー?あると思ったのになー?いやらしい本・・・」 しばらくベッドの下を探っていると、ガンガンガンとドアを叩く音が聞こえた。 真山が帰ってきたのだろか。 柴田はベッドの下の埃を手にいっぱい付けながら、とたとたとドアのほうに向かった。
がちゃりとドアを開けると、そこに居たのは真山ではなく見知らぬ男だった。 「えーっと・・・どちらさまでしょうか?」 柴田は首を傾げながら尋ねた。 すると、相手も少し驚いているような顔で答えた。 「びびったー。ここって男の人の一人暮らしじゃなかった?」 「真山さんのお知り合いの方ですか?」 「え?ああ、そうじゃなくって、この辺ずっと廻ってる新聞屋なんだけど・・・ いっつもこの部屋って男の人が出るから、ちょっとビックリしちゃったよ」 新聞屋と名乗る若い男はえへへと邪気のない笑顔を浮べている。 「新聞屋さん、ですか・・・」 柴田は少し困ってしまった。この手のセールストークは非常に苦手で、いつも断りきれずに新聞を取る羽目になっているのだ。 しかも、ここは自分の家ではなく、真山の家なのに。 柴田がおろおろしていると、新聞屋がにっこりと笑った。 「オネーサン、ここに住んでる人の奥さんかなんか?」 「え!?」 柴田の動きが固まる。 「あれ?違うの?そういえば、ここに住んでる人ってオネーサンよりも年上みたいだったけ?」 新聞屋がいい加減な記憶を辿っていると、突然柴田に肩を掴まれた。 「あの・・・もう一度言っていただけますか?」 「え?何を?」 「あの・・・その・・・『奥さん』って・・・」 柴田が恥ずかしそうにうつむく。 「ああ、なんだやっぱり奥さんなんだ?新婚?」 「し・・・『新婚』・・・?」 「ねー、じゃあ結婚祝いに野球のチケットつけちゃうからさー。取らない?新聞」 「け・・・『結婚』・・・」 「あれ?どうしたの奥さん?顔真っ赤だよ?」 「ト・・・トレビアン・・・!!」 「あ、鼻血・・・。奥さーん?大丈夫ー?」
「・・・・・・柴田、何でこうなったんだよ」 「それがですね・・・色々ありまして・・・」 「色々って何がどうすれば、俺が煙草買ってる間に新聞屋と契約済まして鼻にティッシュ詰めて気絶してんだよ!!」 「野球のチケットもついてますよ」 「ついてますよじゃねえよ!しかも何これ?契約者の名前、何で『真山純』なんだよ!!」 「えーっと、それは新聞屋さんが勝手にですね・・・」 「嘘付け!お前の字だろ?」 「さすが真山さんー。一瞬で筆跡鑑定までできるなんて凄いですねー」 「・・・お前、留守番も一人で出来ないの?小学生以下じゃん・・・」 「えへへ・・・」 「ってかさ、どっか行きたがってたよね?行って来いよ!!何処へでも一人で行って来い!!で、帰ってくんな!!ね、お願い」 「え〜?真山さんも行きましょうよ〜。ね〜」 「やだよ!!お前と一緒にいるとロクな事ないもん!!」 「もう、てれちゃってー」 「ばーか!お前いっぺん死んでみろ!」 「私、二度は死ねません〜」
大切なのは、何処に行くかじゃなくって、誰といるか。 そう言いたいんですよね?真山さん。
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