38:論より証拠 

 

 

 

 

「やるときはやる、それが愛情ォ」

 

いつか、真山さんが言ったその言葉。

じゃあ、今こうして真山さんと抱き合って、体を預けている自分は、愛されているのだろうか?

 

 

「ねぇ、真山さん」

「ん?」

真山さんは、眉間に皺を寄せてうつぶせのまま、上半身を起こし、煙草を吸ってる。

「真山さんって・・・」

「何?」

真山さんが、横目で私のほうを面倒くさそうにチラリと見た。

「・・・・・・」

「何だよ?言いかけてやめないでくれない?」

「・・・だって、真山さんの目が恐いから・・・」

「俺のどこが恐いの?優しいじゃん」

「え?どこが優しいんですか?」

「柴田、お前『根性焼き』って知ってる?」

真山さんが、いつもの不敵な笑みを浮べているのが、月明かりでもわかった。

「『根性焼き』?今川焼きの親せきかなんかですか?」

「・・・もういいよ。お前と話すと疲れる」

真山さんが脱力したように、ベッドにへたり込んだ。

 

明かりがなく、仄かに優しい月明かりだけが照らす室内に、煙草の紫煙だけがゆっくりと立ち昇る。

 

「柴田」

「はい?」

真山さんが、枕元の空き缶に煙草を無理矢理ねじ込んだ。

「お前って・・・」

「何ですか?」

じっと、真山さんの目を見つめた。

「・・・・」

「何ですか〜?言いかけてやめないで下さいよ〜」

「ほら、気になるでしょ?言ってよ、さっきの続き」

真山さんがまたニヤリとこっちのほうを見て笑った。

「え・・・?」

 

ゆっくりと体勢を変えた真山さんは、私のほうに体ごと向け、ニヤニヤと笑っている。

「いいんです。下らないことですから」

「あっそ。どうでもいいこと?」

「どうでもよくはないんですけど・・・」

「言ってる意味がわかんねぇよ」

真山さんが苛ついたように、私の鼻をブタ鼻にする。

「やめて下さいよ〜」

すると、真山さんは私の眉間に指を当て、ぐいっと力を入れた。

私は、上向きの鼻とハの字眉の、最も情けない顔にさせられたのである。

「あははははは。お前の顔最高だよ。傑作!!」

「やめて下さい!!真山さん!!」

「あははははははははは。お前一生このままでいろよ。ある意味、すげぇよ」

「嫌ですよ〜!!指、離して下さいってば〜!!んがっ」

「あ!今お前『フガッ』って言った?言ったよね?あははははははは」

「言ってませんよ!!」

「言ったよ!。本物のブタじゃん!!お前最高!!」

「真山さぁ〜ん。離してください〜!!」

「いいじゃん。このままでいたら、俺きっと一生退屈しないじゃよ?」

「・・・え?」

「すげぇよ。きっと嫌なこととかも、これ見たらぶっ飛ぶよ?ある意味最高の癒し系!!井川遥越えたね!!」

「えへ」

「ばーか。その気になってやんの。ばーか」

「あ、騙したぁ〜!!酷いです〜!!」

「お前、その顔で怒んなって。おかしいよ!面白すぎだよ!!」

あははははと、愉快そうに笑う真山さんに、これ以上何も言えず、私は不機嫌な顔を浮かべる。

 

ひとしきり笑ったあと、真山さんは目に涙をうっすら浮べながらも、ようやく指を離してくれた。

「あ〜、笑ったら疲れた・・・もう寝ようぜ」

「はい。寝ましょう」

真山さんが、半分飛び出ていた自分の上半身に布団をかけた。

布団の中で真山さんの肩に触れると、ひんやりと冷たかった。

「寒くないですか?」

すりすりと、てのひらで真山さんの肩をなでて暖める。

真山さんが目だけでこちらをチラリと見る。

目を細めて少し笑い、それから私を抱きしめた。

 

「お前、あったかいな」

「真山さんが冷たいんですよ。お布団の中にいないから・・・」

真山さんの背中も冷たい。あまり自由にならない手でさする。

真山さんの私を抱く力が、少し強くなった。

密着した体から、真山さんの匂いを感じた。

何故だか、酷く安心する。

 

 

目を瞑ってそのまま、眠りたい気分になった。

さっきの疑問が、頭から綺麗に消えていた。

 

真山さん、本当ですね。

きっと、言葉だけじゃこんな満ち足りた気持ちにはなれない。

言葉よりも、欲しいのは、きっとこんなあたたかさ。

それは、証拠。

口だけの、理論だけの状況証拠ではなくて、私が愛されてるという確固たる証拠。

 

事件と恋愛を一緒にするなんて、と真山さんに叱られそうだけど。