38:夜のとばり 

 

 

 

 

夕焼け、日が沈む真っ赤な空。

もうすぐ、夜がやってくる。

偽者の闇、不完全な暗さ。

 

夜が来るとあなたを思い出す。

不思議だね。

あなたは誰よりも闇を恐れたのに。

夜が一番似合うのはあなただった。

 

それはきっと、あなたが深い闇を背負っていたから。

誰よりも。

 

 

一度だけ。

もう一度だけ、あなたに会えるとしたら。

私はあなたに何を伝えられるかしら。

愛の告白じゃなくて、懺悔の言葉じゃなくて、勿論あなたを責めるような言葉じゃなくって。

もっと、ずっと大きな想い。

 

 

あの時、あなたが私に罪を告白してくれたあの時。

私はあなたにはじめて触れた。

正確には違うけれど、あなたに触れたいと思って触れたのは初めてだった。

その手はおおきくて。でも冷たくて。

あなたの悲しみまで伝わってくるようだった。

 

その時、気づいたの。

大切なのは、一緒に生きることなんかじゃない。

一緒に、罪を背負ってあげることではない。

 

ただ、あなたを、あなたの心の闇をちゃんとわかってあげること。

きっとそれだけでよかった。

 

癒されなくても、傷がむき出しになってしまっても。

自分じゃない人間にわかってもらえるだけで、救いになる。

傷を抱えたままでも、生きていける。

 

「ちゃんと、生きなきゃね」

罪を背負ったままでもいい。何かに追われる毎日でもいい。

自分と向き合って生きることが「ちゃんと生きる」そういうことであるのを。

 

再会した後、色々三人で話したよね?

けれども、あなたもジラフも私も、肝心なことは何一つ口に出さなかった。

それはきっと、あなたたちなら言わなくてもわかってくれると思ったから。

 

でもね、それじゃ駄目だったの。

ちゃんと話さなきゃいけなかったの。

 

口に出さなくても分かり合える他人なんて、いない。

親子でも、恋人でも、友達でも、同士でも。

本当にわかりあいたかったら、口に出さなきゃいけなかったの。

 

だから、私はわからなかった。

あなたが追い詰められている事を。

あなたの闇は、まだずっと続いている事を。

 

きっと、あなたの闇を最後までわかってあげられなかったのが、私の人生の最大の罪なんだと思う。

 

 

暗いところは嫌いだというのに、自ら闇に向かっていったあなた。

どんなに辛かった?どんなに怖かった?

 

私が時々思い出すあなたは、まだやっぱり苦しんでる。

だから、いつもそっと抱きしめるの。

昔、クスノキであなたをそうしていたように。

そうすると、あなたは幸せそうに微笑んで。

それからすっと消えてしまう。

 

胸は痛むけれど、とても幸せな気持ちになる。

一瞬だけ見せる、あなたのあの笑顔が今、私の救いになっている。

 

 

ねぇ、長瀬くん。

今、あなたの胸の中にいる私はどんな表情をしているの?

 

出来たら、笑っている私を憶えていて欲しい。

 

ねぇ、本当に好きだったの。

あなたのことが。

心から、好きだったの。

 

あなたのために何一つ出来なかったけど。

この気持ちさえ、伝えることは出来なかったけれど。

それを言えてたら、何か変わった?

 

いいえ、あなたはきっとそれでも一人で逝ってしまうんでしょうね。

私にとって一番残酷な、その優しさで。

 

 

あなたに会えたら。

もう一度だけでもあなたに会えたら。

 

今度こそ、本当に抱きしめて。

あなたの温かさを感じられるくらいに。

それから、にっこり笑って、こう言うの。

 

「ありがとう」

 

 

闇に眠るあなたに、穏やかな眠りを。

優しい笑顔を、心からの安らぎを。

 

 

もう何も心配いならないから。

おやすみなさい。長瀬くん。