34:ライバル
「『ライバル』…なんですか?」 「ああ、そうや」
お昼休みの弐係。 偶然にも、警視庁の近くのお弁当屋さんでお昼を済まそうと思った柴田と彩、そして真山。 三人で一緒にご飯を食べていた。 彩は今OLに人気だと言うヘルシーランチボックス、真山は大きなエビフライとから揚げが入ったボリューム弁当。 そして柴田は何故か白米だけを食べていた。
最初はキャッキャと食べていた彩と柴田だったが、段々と恋愛の話になっていく。 その様子を真山が興味なさそうに見ていた。
そして柴田が彩に投げかけた質問。 『彩さんと斑目さんって恋人同士でよろしいんですよね…?』 それを聞いた彩が笑って答えた。 『恋人同士なんかやあらへん。…アタシとアイツはいわば「ライバル」や』
「…でも、私の見る限りでは素敵な恋人同士にしか見えませんけど」 柴田が不思議そうに彩に聞き返す。 「あ〜、アンタみたいなビギナーから見たらそう見えるかもしれんな。 でも恋人ちゅうあま〜いカンジやないねん。アタシら」 彩が「チッチ」と箸を振り回しながら答える。 「で、『ライバル』なわけですか…」 感心するような柴田の尻目に、真山がぼそりと呟いた。 「その割にはやることやってるんじゃないの?お前ら」 「だって、オトコとオンナやもーん」 彩が悪びれることなく答える。 真山も興味なさそうにあっそ、と呟いてまた弁当をほおばり始めた。
「柴田、『恋愛は惚れた方が負け』って言葉聞いたことあらへん?」 「はい。…そういえばこの本にも…」 柴田がカバンの中をごそごそと漁り始めた。 「ええって。…ええから話し聞き」 「あ、はい」 「あれ、ホンマなんよ。…実際はどうであれ、恋愛においては惚れた弱みを見せた方が負け。 せやから、簡単に好きとか愛してるとか言ったらあかん。相手に言わせな」 「なるほど…奥が深いですね〜」 「そ。アタシと斑目はその辺でライバルなんや」 彩が割り箸をかたんと置いた。
「…もうわかってるんや。アイツがアタシを好きなことも、…アタシがアイツを好きなことも。 でもお互いに言い出せへん。負けられへん。 だからお互い意識して、相手の出方を見てるんや。勝負…うん。これは一種の勝負なんや。わかる?柴田」 柴田は彩の目をじっとみつめていた。 それが彩にはちょっと痛かった。…なぜかはわからないけど。 「なんだか…かっこいいですねぇ」 その目線とは裏腹な、間の抜けた柴田の返事に彩は苦笑いをする。
「かっこいい…ねぇ…」 お弁当を食べ終わり、既に二本目の煙草を吸っていた真山が、不服そうに呟く。 「何?なんか文句あるん?真山さん」 「…別に。たださ、かっこいいとは思わねぇけどな。そんなの」 「え?」 「俺にはただ逃げてるだけに思えるけど?お前も斑目も。ずるい男と女にしか見えねぇけど」 真山の言葉が、彩の胸にずきりと刺さる。
「…アンタのせいやん」 言い訳の様に、ぼそりと彩が呟いた。 「え?彩さん何か仰いました?」 柴田が彩に尋ねた。 「…ううん。何でもない」 彩が空の弁当を持って立ち上がる。 そしてコツコツとヒールの音を響かせて、ゴミを捨てに行った。
「あ、真山さんまたにんじん残して〜」 「うるせぇよ。お前こそ、なんで白いメシだけなワケ?おかず食えよ、ほらにんじんやるからさ」 「ありがとうございます〜。…あれ?私なんか利用されてます…?」 「気のせいじゃない?」
そんな真山と柴田の会話を聞いて、彩は無性に斑目に逢いたくなる。 甘えはしない。斑目と自分はあくまで対等な男と女で愛しあう。 ずるくても、逃げでもいい。それが私たちの出した結論なのだから。 真山と柴田のように、全てを曝け出して愛し合える、そんな二人がうらやましくもあるけれど。 私には、…私たちにはそんな恋愛は出来ないから。 不器用な、私たちの愛し方。 せめてアイツだけは、わかってくれていますように。 私の、この精一杯の愛しい気持ち。 |