31:ヤキモチ  

 

 

 

 

深夜、もう眠ろうと思っていた真山に、隣で横になる柴田が声をかけた。

「あれ?真山さん首筋に・・・これ、傷ですか?」

柴田が真山の首筋にある紅い筋を見つけた。

「ん?ああ・・・そういえば、昼間木戸が爪で引っかきやがって・・・」

「彩さんが?」

柴田がそっと、その傷に触れる。

「なんか京大やっつけたあとに、勢い余ってな」

真山がくすぐったそうに柴田の指から逃れる。

 

「金太郎さんを?」

「お前が登庁して時にはもう伸びてただろ?」

「そういわれれば・・・そんな気もしますね」

「お前ね、一応係長でしょ?部下の様子くらい気にしろよー」

「・・・・・・」

柴田は、ただ黙って真山の方を見つめている。

「っていうかさ、遅刻してくんなよ!弐係じゃなかったらお前クビだよ?」

「・・・・・・」

「聞いてんの?」

真山が寝返りをうつ。

こちらをじっと見つめていた柴田と目が合った。

「・・・何だよ」

柴田は、視線を真山から首の傷跡に移した。

「あ、目立つ?これ」

真山が目線に気付き、掌で覆おうとした。

その瞬間、柴田の手が真山の腕を掴んだ。

 

「・・・何?」

真山が自分の手首を握る柴田の掌を、反対の手で掴む。

「本当ですか?」

「だから何が?」

「その傷・・・彩さんが金太郎さんを倒す時に偶然あたったって言うの」

真山が片眉をぴくりと上げた。

「・・・疑ってるの?何で?」

「・・・わかりません。ただ・・・」

「ただ?」

真山がそう聞くと、柴田は辛そうに顔をゆがめた。

 

柴田は急に真山の手をどけ、体をぐいっと起こし、真山の傷跡をぺろりと舐めた。

 

「・・・あのさ、動物じゃないんだから・・・」

真山は珍しく照れてるらしく、軽く笑いながら言った。

柴田は、ぎゅっと真山に抱きついた。

「もう何だよ?ワケわかんないよ、お前」

真山があきれたような声を出し、柴田の髪に触れる。

「・・・わからないんです・・・私も・・・」

柴田はまるで、しかられた子供のように情けない声で答える。

「あっそ。じゃあ俺にわかるわけないよな」

真山は柴田の髪を一束掴むと、その中から枝毛を探し始めた。

 

しばらくそうしていた二人の沈黙を破ったのは柴田の方だった。

「・・・真山さん」

「ん?」

柴田が、漸く真山の胸から顔を離した。

「これが、ヤキモチなんでしょうか?」

「俺が知るかよ」

真山はまだ、枝毛探しに夢中の様子だった。

「さっきね、大好きなはずの彩さんが急にちょっと憎らしくなったんです。

なんだか、真山さんと彩さんが・・・って変な想像してしまって・・・」

「何ソレ?俺と木戸が・・・?」

真山が鼻で笑う。

例え他の女に手は出しても、彩にだけは手は出さない。

いや、出していけないと思っているからである。・・・柴田だけではない。彩自身の気持ちを思うと。

 

もぞりと動いて、柴田が真山の顔を見る。

枝毛探しに飽きた真山と目が合う。

「・・・真山さんはヤキモチとか妬かないんですか?」

「妬いてるよ」

あっさりと真山が答える。

「え?妬いてるんですか?本当に?」

真山はうっとおしいとばかりに、柴田から目線をそらした。

「そりゃあ、人間ですから。俺も」

おどけているように真山が呟く。

 

柴田はそれを聞いて、少し興奮したように体を起こした。

「いつ?何に妬いてるんですか??」

捲くし立てるように真山に質問を投げかけると、真山がゆっくりと柴田の方を見た。

そして、柴田の頬にそっと手を添えるように触れる。

「お前に関わる男は、全部片っ端から殺そうかと思うくらい」

その瞳は、時々真山が垣間見せる、狂気の目をしていた。

 

「・・・真山さん・・・?」

柴田は少し恐くなって、小さな声で聞き返す。

フッと真山が笑って、手を柴田の頬から離す。

「冗談だよ。冗談」

笑いながら目を伏せる真山からは、先ほどの狂気は見受けられなかった。

 

柴田は、もう一度真山にぎゅっと抱きついた。

「もう〜、何なんだよ〜。今日のお前は〜」

真山が困ったように柴田の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。

「・・・真山さん」

「はいはい、何ですか?柴田さん」

「すきです」

「・・・知ってます」

「すごく好きです」

「それも知ってる」

「だいだいだいだいだーい好きです」

「もうわかったよ」

真山が柴田を自分のほうにぐいっと引き上げた。

目線が同じところまで移動させられて、自然と柴田は真山と目があった。

 

どちらからともなく、目をつぶり、優しいキスを何回か繰り返した。

「柴田」

「何ですか?」

「そんなにコノ傷気になるならさ、隠してよ」

「え?隠すって・・・?」

「こんな風に」

真山が、柴田の鎖骨の辺りを激しく吸った。

紅い痕が、柴田の白い肌に残る。

「・・・キスマーク?」

「そうともいうね。はい、どうぞ?」

「恥ずかしくないですか?」

「・・・まぁ、いいんじゃない?子供じゃないし」

「はぁ・・・」

「お前からの『愛の証』ってことで」

「何言ってるんですか!?真山さんちょっとおかしいですよ?」

柴田が顔を紅く染める。

「たまにはいいじゃん?」

 

優しく笑う真山に、柴田はひどく満たされた気がした。

そして真山もまた、こんな気持ちでいてくれるといいなぁと柴田は思ったが、

真山の笑顔があまりにも幸せそうだから、自分と同じ気持ちでいてくれるんだと思うことにした。

 

ヤキモチも、こんな幸福感も教えてくれるこの人が、とても大切だ。

たとえ、この人が同じ幸福感を抱いてくれていなくても、それでもいい。

ずっと、ずっと、この人の傍に。

それだけを、思って眠ろう。