31:また明日

 

 

 

 

永遠なんてないのは、知っている。

俺の願った幸せは、いつも壊れてしまうから。

幸せだと感じた分だけ、それは、いつも儚い。

脆くって、壊れやすくて、一瞬で。

だから、つい抱えてしまう。

 

壊れないように何重にも包んで。

隠して、隠して。何事にも晒される事のないように。

 

そして、それと常に一緒にあるこの気持ちは、お前にだけは隠さなければいけないのかもしれない。

 

 

「じゃあ、真山さん。私はこれで・・・」

「は?」

「ええと、私は帰りますので、また明日ということで」

「何で?」

「何でと言われましても・・・もう夜ですし」

「だから言ってんじゃん。何でわざわざ帰んの?」

「何でって・・・」

「もう夜だよ?お前の方向音痴をもってしたら家帰るの朝になるじゃん」

「ひどーい!!自分の家に帰ることくらい出来ますよー?」

「・・・嘘つけ」

「えっと・・・駅まで歩いて、電車に乗って・・・」

「何線?」

「え?・・・何だっけ・・・青い電車ですっけ?」

「うちのあたり、青いのなんて通ってないけど?」

「あー・・・違ったかな・・・?」

「ってことで、却下。明日また遅刻しちゃうよ?」

「でも・・・もう3日も帰ってないし・・・」

「明日帰ればいいじゃん。明日。ね?」

「真山さん・・・」

「ん?」

「どうしたんですか?」

「何が」

「・・・なんか、ヘンですよ?真山さん」

「そう?」

「はい。いつも言わないじゃないですか。帰れとも帰るなとも」

「でも、たまにはいいでしょ?引き止められるのも」

「・・・悪い気はしませんね」

「調子にのんなって」

「すみません・・・」

「すまないと思う気持ちがあったら、今日は泊まってけって。な?」

「だから、どうしたんですか?・・・ここまでくると気味悪いですよ?」

「言うねえ」

「だって・・・」

「いいじゃん。深く考えんなって」

「・・・わかりました。じゃあ、今日はお言葉に甘えて」

「よしよし。そう来なきゃね〜」

「・・・真山さん」

「ん?」

「ホントに、どうかしたんですか?」

「・・・しつこいよ?」

「でも、なんか・・・」

「・・・何?」

 

 

お前にだけは見せてはいけないんだ。

その正体は、怖くて、醜くて、だけど本当に綺麗なものだから。

こんな自分を、お前にだけは知って欲しくない。

 

 

「・・・真山さん」

「ん?」

「触っても、いいですか?」

「・・・どうぞ?」

 

柴田の手がゆっくりと真山の頬をなぞった。

いつもと変わらない真山の表情。

 

「真山さん」

「何だよ」

「ぎゅって、抱きしめてもいいですか?」

「・・・うん」

 

 

きっと、本当はお前が一番よく知っているんだ。

俺の一番弱くて、情けないところを。

 

こうやって抱きしめてくれる腕の強さは、強くもなく弱くもなく、ふわりと包まれるような加減で。

お前の匂いと温度は、感じるだけでそれが幸せだと思えるほどだ。

 

 

「また明日」なんて言わないで。

理不尽に幸せを奪われる事を俺は知っているから。

 

明日なんて来ないかもしれない。

明日にはお前は傍にいないかもしれない。

 

情けないけど、馬鹿馬鹿しいけど。

そんな恐怖に押しつぶされそうになってしまう。

 

 

隠そうとはするけれど、きっと見抜かれている俺の虚勢を

上手に気付かない振りをして。

こうやって抱きしめて。

やがてそのまま眠りについて。

目が覚めれば、この不安はまた心の中にしまうことが出来ると思うから。

 

 

俺もお前も独りでも生きていける。

だからこそ、一緒に生きていたい。

 

 

 

「真山さん」

「ん?」

「ずっと、こうしていてくださいね?」

 

・・・こちらこそ、お願いします。柴田さん。