29:眼鏡  

 

 

 

 

こんにちは。

私は、警視庁捜査一課弐係の近藤と申します。

 

特技はパソコンを使った継続捜査。

継続というのはですね・・・え?もうご存知?

そうですか。失礼しました。

 

えー、チャームポイントは眼鏡です。

最近、京大出身のキャリア・遠山君が入ってきたので

「弐係の眼鏡君」が私だけではなくなってしまったのが残念です。

キャラがカブってるのはキツいですね。

 

まぁけれども、遠山君と違って私は洗練された雰囲気のある、黒ぶち眼鏡。

妻にも、子供にも「よく似合っている」と評判は上々です。

・・・ここだけの話ですが、実は私同じ眼鏡を5種類持っていて、気分で使い分けているんです。

知らなかったでしょ?

多分、このことは妻も子供も気付いていないはず。

・・・ただひとつ気になるのは、同僚の真山さんが毎朝、朝一番で私の眼鏡をよく見ることです。

まさか・・・。

・・・まさかですよね?真山さん。

 

そして趣味はお稽古事をすることです。

ウィークディは、ほぼ毎日お稽古をしておりまして、少々出費はかさみますが、

自分への投資だと思って、ケチらないようにはしています。

幸い、私は煙草もギャンブルもやらないので、その分のお小遣いは趣味に回せます。

最近一番力を入れているのは、社交ダンスです。

やはり、仲間が沢山いるものが楽しいですよね。

この間も大会に向けて、仲間たちと「Shall we dance?」という映画の鑑賞会をしました。

さすが社交ダンス好きの仲間たちだけあって、皆さん見たことがあったのですけれど、

社交ダンスを知ってから見るとより一層楽しめました。

いや〜、面白いですねー。あの映画は。特にあの服部という役の俳優は・・・

 

え?前置きが長い?

失礼しました。ええと、今日お話しするのは・・・何でしたっけ?

あ、真山さんと柴田さんの・・・はいはい。承知しました。

 

ええと、何から話せばいいのやら・・・

そうそう、この間こんなことがありました。

 

朝、真山さんが柴田さんと出勤された日でした。

え?一緒に出勤が何か?

ああ、最近は珍しくもないんですよ。

初めの頃はすこし時間をずらしていらっしゃいましたが、最近はもう堂々としたものですね。

誰も真山さんを恐れてからかえないと見越してのことなのか、

それともお二人の中で冷やかされても構わないという決意があってのことなのか・・・

え?ただ単に面倒臭いだけではないかって?

・・・ああ、そうかもしれませんね。なるほど。あなた、刑事になりませんか?その推理力。

 

あ、話が脇に逸れました。

ええと、どこまで・・・ああ、二人が一緒に・・・

そうなんです。で、その時にふと真山さんのネクタイを見たら、結び方がちょっと変わってて。

いや、一見わからないんですけどね。なんかこう・・・ちょっとヘンに歪んでたんですよ。

 

それで私が「真山さん、今日ネクタイ曲がってませんか?」って言ったんです。

軽い気持ちで。

ええ。『油断一秒、怪我一生』。私は、残り少ない人生で、この言葉だけは例えボケようとも忘れないでおきたいです。

私の一声で、ご機嫌そうだった真山さんの眉間に皺が見る見るよりました。

そして、柴田さんがかわいらしく首を傾げながら、真山さんのネクタイを見つめたんです。

「あれぇ?言われた通りやってみたんですけどねぇ」

 

その瞬間、私は悟りました。

ああ、地雷を踏んだ。

「地雷Zero」キャンペーン。昔どこかの局でやっていましたが、なくすべき地雷はここにもありますよ〜、筑紫さん。

 

私がそんな不謹慎?な事を考えている間に、真山さんは、柴田さんの頭を急に叩きだしました。

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿。ちゃんとネクタイ結べるっておまえが言ったんでしょ?」

「いたた、痛いです。だって、真山さんだってこれでオッケー出してくださったじゃないですかぁ〜」

「お!人のせいにする気?警察官でしょ?キャリアでしょ?有名な親父さんが泣くよ?お嬢さま〜」

「人のせいにしてらっしゃるのは真山さんじゃないですか〜・・・いたっ」

「うるせぇよ!じゃあ何?俺は満員電車の中を曲がった、かっこ悪〜いネクタイで来たの?

どうしてくれるんだよ!この、馬鹿柴田!!」

「あたっ!・・・だから痛いですってば〜。第一、真山さんそんなに身なりに気を使う方でしたっけ?」

「気にするよ。少なくともその一昔前の服装のお前よりはな」

「ひとむかし・・・『時代に流されないお洒落』って言って下さいよ〜」

「ああ、出たよ、脳天気。なんだよそのポジティブ思考!!めでたいね〜、お前」

「もう〜、じゃあ、やり直しますから・・・」

「お前ね。何言ってんの?傷ついた俺になんかない?慰謝料とか、慰謝料とか、慰謝料とか・・・」

「え〜?どうして私が・・・」

「じゃあ何?訴える?法廷で戦う!?」

「大袈裟ですよ」

「大袈裟にされたくなかったら、慰謝料!今日の昼飯代な!」

「真山さん、それでは恐喝ですよ?」

「うるせぇ!金ないんだよ。手段なんて選んでられるか!!」

「・・・わかりました。お昼、ご馳走しますよ」

「やった。さすがだね、係長。太っ腹〜」

「いいから、ちょっとじっとしててください」

 

そして、柴田さんが真山さんのネクタイを結ぶんですけどね、これがまた・・・

なんと言いますか・・・普段は・・・失礼ですが野暮ったい柴田さんが、とても色っぽい顔をしてですね

真山さんも、柴田さんが自分のネクタイを結ぶのをこう・・・愛しそうに見つめてですね・・・

とにかく、なかなかお似合いの二人だなぁと。

 

「いかがですか?」

「今度こそ大丈夫だろうね?・・・近藤さん、曲がってる?」

真山さんに話しかけられて、ちょっとびくっとしてしまいました。・・・・情けない。

「あ、はい。今度はばっちりです。柴田さん」

「えへへ」

「何、得意気な顔してるんだよ」

真山さんが、柴田さんを小さく叩きました。

 

え?なんだかいい話だって?

・・・実はこれにはちょっと続きが・・・

 

柴田さんが、私に突然言ったんです。

「あ、よろしければ近藤さんのネクタイも結ばせて下さいよ〜」

私は一瞬どきりとしました。

若くて(一応)綺麗な柴田さんにネクタイを結んでもらうなんて、ちょっと新婚気分でいいじゃないですか。

でも、柴田さんの横にいる真山さんを見てみると・・・

まるで、私を殺さんばかりの殺気をびんびんに放って、こちらを睨んでいました。

 

「わかってるよね?まさか、『うん』なんて言わないよね?」

真山さんが無言で、そう言っているような気がしました。

 

私はさぁーっと自分の血の気が引くのを感じて、すぐさま答えました。

「け、結構です!!こ、この通り、今日はネクタイ曲がっていませんし!!」

今思えは、声が裏返っていたかもしれません。

「ええ〜?そうですかぁ?残念です・・・」

がっくりとうなだれる柴田さんの横では、満足げな真山さん。

 

ああ。普段培ってきた判断力が、ここで発揮されてよかったなぁと思う瞬間でした。

 

え?オチはそれですかって・・・。

オチてないって言われましても・・・コントじゃないので・・・

え?もういい?だって私のインタビューは3時間の予定・・・

あ、他の人に話を聞く?誰にですか?

・・・ああ、木戸さん・・・

 

いえ、文句なんて・・・いい判断だと思います。

 

じゃあ、今日はこれで・・・

あ、私匿名で出ますか?これ読んだら真山さん、きっと怒ると思うんですよね〜。

え?長々と冒頭自己紹介して何を言ってるんだって?

・・・すみません、そうですよね・・

 

あの〜、せめて警視庁には送らないで下さい。

はい。私の自宅に。

え?木戸さんが警視庁に送るように希望を・・・?

 

いえ、いいです・・・

木戸さんの意見を優先させてください。

 

はい・・・お疲れ様でした・・・ありがとうございました・・・