26:待ち人
午後9時、駅前広場。 そう大きくはない駅前で、私は一人ベンチに座っていた。
理由はない。 強いて言えば「人間観察」が趣味なのだ。 私は自称『作家のタマゴ』で。 人を観察して、その様子を文章におこすのが最近の楽しみ。 今日はどの人にしようかな?
ふと目に付いたその男は、 上下スエット、眉間に皺、咥え煙草。 向かいのベンチに足を組んで、不機嫌そうに座っていた。 足元には沢山の吸殻。 きっと誰かを待っているんだ。 こんなちょっと恐そうな男を待たせるなんてどんな人だろう? 面白そう…
よーし、今日はこの人を観察することに決ーめた。
男は、しきりに時計を気にしていた。 目線は、駅の改札から離さない。 思っていたよりも鋭い目をしていた。
やっぱり、待ち合わせかー。 今は…夜の9時15分。 こんな時間に、パジャマのような格好で出迎えるなんて… よっぽど親しい人なんだろうな〜。 家族か、恋人か…。 ん〜。でもこの人…どうみても30は越えてそう。 となると奥さんかなー?「夜道は危ないから迎えにいくよ」なんちゃって。 意外と優しいのかもしれない。
短くなった煙草を、下に落し踏みつけている。 もう、4本の煙草が足元に落ちていた。 うーん、となると結構待ってるんだね〜。相手が遅れてるのかな? あ、また新しい煙草に火をつけた。 少し風があるみたいでなかなか火がつかない。 しかめっつらになりながらも、目は改札から離さない。凄いな〜。 ようやく火がついたみたい。 美味しそうに指の付け根で煙草を挟んで、煙草を吸っている姿がなんだかとても絵になっていた。
よく見ると、男の顔は不機嫌そうではあるけれど、怒ってはいない気がした。 待ち人がこの場に来ないことに、不安を覚えているような…
周りの待ち合わせと思われる人たちは、待たされている感じはしても、 メールを打ったり、音楽を聴いたり、本を読んだり、自分の時間を楽しんでいるようにも見える。
その中で、ただじっと相手を待ち続けることだけに集中しているようなこの男が、少し異質なものに見えた。 彼が待っているのは、とても大切な、大切な何か。 決して、何があっても手放してはいけないものなのであろう。
男の表情が一瞬で変わった。 一瞬で明るく、安心した優しい顔つきになった。
待ち人が、ついに来たんだ―
男の視線の先を目で追うと、そこにはよろよろと歩く女が一人。 嬉しそうに笑いながら、重そうなバックを抱えて男の方に向かっている。
その瞬間、女が何もないところでつまづいた。 男が一瞬で元の鋭い目つきに戻り、凄まじい反射神経で女を支える。
女がえへへと余計にしまりのない顔で男に微笑みかけると、男はぺちんと女の頭を叩いた。
彼女を見る彼の視線がとても優しくて、彼女が彼を見る視線がとてもあたたかくて、私はなんだかとても満たされた気がした。
二人は少しはなれて歩きながら、夜の街へと消えていった。 後に残された吸殻が、男の女に対する想いを代返しているようだった。
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