25:星
捜査の為に来た、とある都市。 そこには、所狭しとアーケードに大きな飾りがあった。 「・・・真山さん、あの飾り何の飾りなんですか?」 柴田が、半そでの真山のシャツの袖をつまんだ。 「七夕でしょ?」 真山はあちーとつぶやきながら先ほどまできていた背広を肩に無造作に掛けた。
「七夕って・・・もう終ったんじゃなかったですか?」 柴田が真山の袖を掴んだまま、その場にぴたりと止まった。 真山は眉間に皺を寄せて、あきれたように柴田を見る。 「今月の頭に、やりましたよね?弐係のみなさんと笹の葉飾って。・・・あれ?」 柴田は開いている方の手を口の傍に持ってきて、お得意の推理ポーズをしている。 「『弐係のみなさんと』、じゃなくってお前が一人で張り切ってただけじゃん」 「ひどいです〜!みんなで一緒に楽しんで・・・あれ?ということはあれは七夕でよかったんですよね?」 「お前頭いいんでしょ?ちゃんと自分で覚えてろよ」 「ええ。実は最近真山さんの痴呆症がうつっちゃったみたいで・・・すみません。嘘です、嘘です」 真山をからかおうと思った柴田だったが、彼の真剣な殺意のこもった目を見てすぐにやめてしまった。
真山がはぁーとため息をついて、ポケットから煙草を取り出した。 「旧暦。この地方では旧暦で七夕をするんでしょ?」 呆れたように、諭すように柴田の方をゆっくり見る。 「ああ、旧暦ですか。なるほど」 柴田が少し周りを見渡してみると、「今年の旧暦七夕は8月4日です」という但し書きをした七夕祭りのポスターが何枚か目に入った。
「もう一度七夕祭りが出来るなんて、ヘンな感じですねぇ〜」 柴田がにへらと真山を見る。 真山は冷めた目で柴田と目を合わせた。 「俺、お前が一人で騒いでた七夕に参加した覚え、ないんですけど?」 「あ!そういえば・・・」 柴田はそう言われて思い出した。 弐係でみんなに短冊を渡したが、真山のだけは帰ってこなかったのだ。 (ちなみに野々村元係長は「雅ちゃんとず〜っとチョーラブラブでいられますようにv」 近藤は「社交ダンス2級になれますように。 彩は「玉の輿に乗れますように」 金太郎は「脱・童貞(彩が書いた)」であった)
「真山さん、お嫌いなんですか?七夕」 柴田が心配そうに真山の顔を覗き込む。 「ああ、嫌いだねぇ」 真山は目を伏せて煙草の煙を柴田にかからないように一気に吐き出した。
「俺、あの彦星って男、嫌いなんだよね〜。 だって何?見合いして結婚した女に惚れて?・・・そこまではいいよ。うん。 で、その女に入れ込んで、仕事しなくなって。で、親に別れさせられて。 それで川の向こうとこっちに離れ離れに〜ってさ、どこが不幸なの?自業自得じゃん」 「・・・はぁ。言われてみれば」 「でしょ!?それに何?そいつらが一年に一度会う日なんかにどうして願い事なんかすんの? 彦星も織姫もそんなの構ってられるわけないじゃん、ねぇ?」 「・・・真山さんお詳しいんですね」 柴田の鋭い突っ込みに、真山が一瞬止まる。 「さ、沙織がね、こういうのす、好きだったからさ。うん」 「あ、真山さん煙草の灰、落ちまくってますよ?」 「・・・うん、しってる」 ギクシャクと真山は近くにあった灰皿にもう短くなりすぎた煙草を捨てた。
「大体さ、星に願いを、なんて嫌いなんだよ。俺」 「どうしてですか?」
柴田が、真山を真っ直ぐに見つめる。 柴田が真実を知りたいと思うときのクセであった。
「俺は、自分に出来ないことは願わないからさ」 真山の表情が、身に纏う空気が柔らかくなった。 「自分のしたいことは、なりたいものは、自分で叶えるの。 だって、そうじゃなきゃ達成した時の面白味がないじゃん。 星だろうが、神様だろうが、他人に叶えてもらった願いなんてさ、つまんないでしょ?」
「う〜ん。それって神様を信じていないってことですか?」 柴田が難しい顔をしている。 「これだから頭のいいヤツっていうのはヤだよ。何でも難しい方に考えやがってさ」 真山が首をゆっくりと回す。 そして柴田をチラリと見た。
「俺だったら、惚れた女に会うためだったら星の海でも泳いでいくってことだよ。 どうせ、そいつは泳げないしね。俺が行くしかないじゃん?」 「・・・ますますわからないです」 それでいいんだよと言いたそうに真山がふっと笑った。
「よし、牛タン食って帰るかな〜」 「待ってください〜!!まだ目撃者のお話を聞いてないんですよ〜!真山さぁ〜ん」
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