25:のれん
休日の朝、いつもより遅く起きた真山は、気だるさを感じながらも歯を磨いていた。
昨日の夜、柴田がとっておきの怪談を頼みもしないのに聞かせてくれたので、イマイチよく眠れなかった。 天井に見えもしないシミが見えたし、揺れるカーテンはお化けに見えてならなかった。 夜中、トイレに行きたくて何度柴田を起こそうとしたことか。 でもそれにもかかわらず、すーすーと寝息を立てて爆睡する柴田に何度殺意を抱いた事か。 すべての元凶のくせに。 けれども、犯罪者になることもなく、幽霊と遭遇もせずに無事に朝を迎えられてことの喜びを密かに感じていた。
しかし、その時だった。 ふと鏡を見ると、真山の後ろには、長い髪を顔が見えないほど前に垂らしてゆらりと立つ女が。 「!!!!」 真山は声にならない叫びをあげる。 (柴田に無理矢理見させられた)あの映画とそっくりな女・・・ そういえば、あの映画を見たのは丁度一週間前だった・・・
タスケテ〜!! 真山が心の中でそう叫んだ瞬間、聞きなれたのんきな声が聞こえた。 「・・・真山さん、おはようございます〜」 「・・・え?」 よくよく考えれば当たり前のこと。その貞子もどきは柴田だったのだ。
「真山さん?どうかなさいましたか?」 柴田は顔を上げるが、髪の毛に隠れている目では真山が見えなかった。 ばしっ 真山が力いっぱい柴田を叩く音が部屋に響く。 「いったあ〜〜〜い!!」 「びっくりさせるんじゃねえよ!!馬鹿!!」 「私が何をしたって言うんですかー!?」 「こっちこそ、俺が何をしたって言うんですか?脅かすなよ!いじめんなよ!」 「真山さんをいじめてないんかないですよ?むしろ私がいじめられているというか・・・」 「どこがだよ!俺、寿命縮んじゃったよ?どうしてくれるんだよ!俺の寿命返せよ!!」 「え?ちょっと話が見えないんですけど・・・」 「うるせー、慰謝料だ。慰謝料。三百万。今からツチノコ採って来い、お前」 「真山さん、まだ寝ぼけてるんじゃないですかー?」 「起きてるよ!お前のお陰で嫌でも目が覚めたよ!」 「あー、朝からテンション高いですねー。私昨日ちょっと眠れなくって・・・」 「嘘付け、お前ガーガー寝てたじゃん」 「がーがーなんて寝てませんよ」 「あれ?お前知らないの?お前寝てる時いびきに歯軋り、すっごいよ?」 「・・・え?本当ですか?」 「うるせーうるせー。俺今耳栓買おうかどうか検討中」 「すみません・・・」 「ばーか。本気にしてやんの」 「え?嘘だったんですかー?ひっどーい!!」 「どこがだよ。俺がお前にされた仕打ちを考えるとかわいらしいもんじゃん」 「ですからー、私が一体何をしたと・・・」 「髪、髪」 「・・・は?」 「そんな貞子みたいな髪の毛で後ろから近寄ってくんなよ!怖えじゃん!」 「ああ、なるほど」 「何だよ、お前。そんなすだれみたいなのれんみたいな髪の毛して・・・ぼーぼーじゃん。床屋とか行かないの?」 「あー、そういえば最近行ってないですねー」 「最近ってどのくらい?」 「えーっと・・・・この間行ったのが・・・2月、かな?」 「最近じゃん」 「いえ、去年の」 「・・・・・・・」 「真山さん?」 「・・・お前、本当に女?」 「酷いです」 「お前が酷いんです。行けよ、床屋ぐらい」 「だって・・・ついつい後回しになっちゃって・・・」 「すんなって。な?」 「でも・・・別に髪の毛くらい・・・」 「柴田」 「・・・はい」 「行って来いって。床屋でも美容院でもカリスマ美容師でもお袋さんでもいいからさ。ね?」 「えー・・・」 「えーじゃないよ」
「あ、じゃあ一つお願いが」 「・・・なんだよ」 「あーでもどうしようかなー。恥ずかしいしなー」 「だから何?早く言ってくんない?」 「えーっと・・・じゃあ、笑わないで下さいよ?」 「・・・どうぞ?」 「・・・なでなで」 「は?」
「髪の毛切ってきたら、なでなでしてくれますか?」
絶句。 「好きなんですよねー。真山さんがなでなでしてくれるの」 「はぁ・・・」 「だからー、髪の毛切ってきたらご褒美になでなでして下さい」 「・・・柴田、お前ってさ」 「なんですか?」 「犬みてぇ」 「・・・・・・・・」
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