16:夏
夏は嫌いだ。 暑いし、うるさい蝉の声にイライラさせられるのも気に食わない。
今日は休み。 こんな日は、家でじっとしているのが一番だ。 ベッドから起き上がる事も出来ずに、寝転びながら煙草をふかした。
ウチにはクーラーがついていない。 まるでサウナだ。 「あちー」 Tシャツをぱたぱた仰いで、少しでも涼しさを求める。 ・・・この密室では所詮無理な話ではあった。 不快指数がまた上がる。 ちょっと人でも殴りたくなった、その時だった。
どんどんどんどん 乱暴に扉を叩く音がする。 「開いてるよー」 どうせ、ヤツだと適当な返事をした。
がちゃ 扉が開いて、そこから顔を出したのは、予想通りのアイツの顔だった。 「真山さん、こんにちは〜」 ヤツはこの暑いさなかだと言うのに、長袖のブラウスを着ている。 「うわ〜、暑いですねぇ。この部屋」 「お前が長袖なんか着てるからでしょ?」 柴田はぺたぺたと勝手に部屋に上がりこんだ。 そして、窓をからからと開ける。
柴田が開けた窓から、気持ちのいい風が入ってきた。 珍しくシャンプーをしているのか、風になびく柴田の髪が綺麗で。 不本意ながらも少し、見とれた。
「綺麗ですねぇ」 柴田がこっちを振り向いた。 本音を見透かされたようで一瞬、どきりとした。 「・・・何が?」 「雲ですよ。ほら、風に流れて綺麗じゃないですか?」 「興味ないねぇ」 「もう!真山さんには情緒とか、趣とかってないんですか?」 ぷりぷりと怒りながら、柴田がベッドに近づいてくる。 それを横目で見て、柴田のために少しスペースを空けてやる。 柴田が空いたそのスペースにちょこんと座る。 俺に背を向けて座り、カバンをごそごそと漁っている。
俺の真横にある柴田の頭を撫でる。 指に絡む髪が、さらさらとして気持ちいい。 髪を掬って匂いを嗅ぐと、石鹸の匂いがする。 柴田が少しだけ、こっちを向いた。 俺の指からさらりと髪の毛が落ちた。
「すごい汗ですね」 柴田が俺の額をそっと撫でた。 体温の低い柴田の指は冷たくて、気持ちがいい。 「お前の指、冷たくて気持ちいいね」 「もっと、気持ちよくしてあげましょうか?」 「・・・こんな真昼間から?」 「え?・・・あ!違いますよ。真山さんのエッチ」 柴田が頬を紅く染めてぷいっとそっぽを向いた。 「お前の言い方がやらしんだよ」 ぺちんと柴田の頭を叩く。
「はい」 柴田が急に、目の前にアイスを取り出した。 「真山さんのはね、バナナ味です。探すのに苦労したんですからねー」 柴田からアイスを受取る。 「私のはこれ。じゃーん、すいかバーです。これ、種まで食べれるんですよ」 うふふと嬉しそうに柴田がアイスにかぶりついた。 俺も、自分の手にしているアイスにかぶりつく。 冷たいアイスは少し溶けていたけれど、それでも口の中を冷やすのには十分で。 甘い人工的な果実の味は、冷たさと一緒に口の中に広がっていった。
「おいしいですか?」 「・・・なかなかだね」 「えへへ」 「おまえさ、ついてるよ。口」 「え?どこですか?」 ・・・全く、誘うのが上手いねぇ。(やり方はべタだけどさ)
そっと柴田の唇に、自分の唇を重ねた。 柴田の唇は、アイスよりずっと冷たくて、甘い。
最後にぺろりとアイスのついてる箇所を舐めた。 「もう、取れたよ」 「あ・・・りがとうございます・・・」 「どういたしまして。ごちそーさん」 「おそまつさまでした・・・」 「アイスの事だよ?」 「・・・」
「あ・・・真山さん」 「何?」 「バナナとすいかって混じっちゃうとなんだか美味しくないですねぇ」 のんきにそう言う柴田の頭を、もういっかいぺちんと叩いた。
|