14:手鏡

 

 

 

 

捜査が終わった後、柴田と一緒に俺の部屋に戻ってきた。

いつもの、金曜日の風景。

唯一つ違うのは、

柴田が珍しく手鏡を見ている事。

 

「ほらよ」

柴田の前にコーヒーの入ったカップを差し出す。

いつもなら笑顔で受取る柴田が、今日は見向きもしない。

俺は少しむっとして、両手に持ったカップからコーヒーをこぼさないように柴田を蹴る。

「あぁっ・・・」

柴田が手鏡を握り締めたまま、その場でよろけた。

「お前さ、せっかく人がわざわざコーヒーを淹れてやったのに、その態度は何?」

不機嫌な顔で柴田を思いっきり見下ろした。

「ひどいです〜、真山さん」

「酷いのはどっちだよ?コーヒー頭から浴びせるよ?」

「や、やめてください〜」

柴田が手鏡で顔を隠しながら、必死に抗議をする。

「柴田、『ごめんなさい』は?」

「・・・ごめんなさい」

無理矢理謝らせてみたものの、柴田はまだ手鏡で顔を覆っている。

 

まだ顔を隠している柴田を不思議に思い、持っていたコーヒーを床に置く。

「しーばた。何隠してんの?」

ニコニコと顔を作って柴田に接近する。

「な、何も隠してないですよぅ」

柴田が俺から逃れようと、じりじりと後退する。

「ね、何も隠していないんだったら、何でその鏡、放さないの?」

「これは、ちょっと諸事情がありまして・・・」

柴田が後ろに逃げるたびに、俺が柴田に近づく。

逃げる柴田と、追う俺のじりじりとした攻防戦が始まった。

「何だよ、諸事情って」

「ですから、色々とありまして・・・」

「俺にも言えない事なワケ?」

「・・・真山さんだから、言えないんです・・・」

「そんな事言われたらさ、余計に気になるじゃん」

そこまで言うと、柴田が逃げる動きを止めた。

狭い部屋の中だ。逃げる場所がなくなってしまったらしい。

 

背中を壁にぴったりとくっつけ、小さくなっている柴田。

それでも、決して鏡を放さない所に、コイツの頑固さがにじみ出ているなぁと苦笑いをした。

そっと柴田の細い手首を掴む。

「・・・いい加減、観念しろよ」

あきれたように呟いた。

「真山さんこそ、いい加減にしてください」

「お前が俺になんか隠してるからでしょ?」

「・・・気にしないで下さいよ。なんでもないですから」

「じゃあ、何でそんなに逃げるの?」

「・・・・・・」

言葉に詰まる柴田をみてクスリと笑う。

 

鏡に手を掛け、無理矢理奪った。

「あぁ〜。真山さんのエッチ〜」

柴田のまぬけな声がした。

「・・・別に、いつもと変わんないじゃん」

「あのですね、真山さん」

柴田が何か言いたそうだったが、それを無視して柴田の髪を少し掬った。

 

「顔、隠すなよ」

至近距離で、囁く。

「でも・・・」

柴田が少し目を潤ませた。

「でもじゃないでしょ?顔隠したら、キスが出来なくなるじゃん」

そういった後、キスをしようと、柴田の頬に触れる。

柴田が、ゆっくりと目を閉じた。

 

「あれ?」

親指の腹に、何か異物感を感じた。

「あ!そこは・・・」

キス直前まで接近していた顔を、少し離して柴田の顔をもう一度よく見つめる。

 

「お前・・・吹き出物出来てるじゃん」

 

柴田の肌は、よく手入れもしていないのに、とても綺麗だ。

からだもよくすべすべしていて,触り心地がいいし、顔だってつるつるだ。

だからこそ、柴田の顔にある吹き出物が気になってしまった。

「ああ〜!吹き出物って言ったぁ〜!!『にきび』って言って下さいよ〜!!

「図々しいんだよ!普通ハタチ越えたら『きにび』じゃなくて、『吹き出物』って言うもんでしょ?お前一体いくつのつもりだよ!」

「あぁ、にきびなんて出たこと無かったのになぁ・・・」

「だから、にきびじゃなくって吹き出物!ねぇ、人の話聞いてる?」

 

「あ〜あ、くだらない事で時間取っちゃったじゃん」

よっと、俺は立ち上がった。

コーヒーを拾って、ごくりと飲む。

冷めていたが、熱いのが苦手な俺には丁度いい温度だった。

 

つんつん。

いつの間にか俺のそばに来ていた柴田が俺のズボンの裾を引っ張った。

「何?」

目だけを柴田のほうに向けた。

「・・・しないんですか?さっきの続き・・・」

そのキスをねだる柴田の顔は、やっぱりかわいくて。

ほらね、やっぱり顔は見えていたほうがいいだろう?と、一人満足そうに笑った。

 

「しょうがねぇなぁ」

わざとらしく呟いて、柴田にキスをした。

 

キスを終えて、そっと離れると、少し顔の赤い柴田がえへへと笑った。

なでなでとその頭を撫でる。

 

「もう、鏡はいいの?」

冷めたコーヒーの入ったカップをもう一度手渡してながら柴田に聞くと

「にきび見てても、落ち込むだけですから」

「ああ、吹き出ものね」

「もう!」